地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第193回 日高貢一郎さん:宮崎は招く、『KITEN』『KONNE』

2012年3月17日

宮崎の陸の玄関口、JR宮崎駅の西口前に、複合ビル『KITEN』が昨年の秋=平成23年11月3日に全館開業しました。飲食店や商業施設、市民サービス施設、オフィスやホテルなどが入っています。

【写真1 『KITEN』2階の展示コーナーから】
【写真1 『KITEN』2階の展示コーナーから】
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宮崎商工会議所の会員企業が中心になって建設した14階建ての「宮崎グリーンスフィア壱番館」ビルがそれで、「KITEN」はその愛称です。

「KITEN」とは宮崎方言の「来てん」で、〔来てごらん、おいでよ〕という意味ですが、併せて観光や交通などの「起点」になってほしいという願いも込められています。

宮崎商工会議所が呼びかけた愛称公募に、宮崎県内から1471点、県外から2448点、合計3919点が寄せられ、1・2次審査を通過した7点の中から、最後は、宮崎で毎年キャンプをしているプロ野球・読売巨人軍の原 辰徳監督が決めたということです。

現在、このビルの2階に、応募された全作品を都道府県別に紹介したパネルや、地域別の応募数、「KITEN」の意味やロゴデザインの説明などを展示したコーナーがあります。

宮崎市ではもう一つ、宮崎県庁のすぐ側にある、県産品を販売する旧称『みやざき物産館』(昭和45年10月開業)が、ことし平成24年1月1日から方言名の「みやざき物産館KONNE」と名前を変えました(この施設については、第23回「どげんかせんといかん」のその後 を参照)。

東京には各県の観光情報や物産の紹介・販売をする施設やアンテナショップがあります(第14回 を参照)。宮崎県はJR新宿駅の南口に『新宿みやざき館KONNE』を平成10年3月にスタートさせました(第13回 を参照)。

平成19年1月の東国原英夫知事の就任で、宮崎県に関する話題がマスメディアで盛んに取り上げられ、宮崎への注目度や、マンゴーや日向夏みかん、シイタケ、宮崎牛、地鶏、焼酎、その他の農産物や海産物、工芸品などの産品の知名度が一段と上がりました。

【写真2 『みやざき物産館KONNE』の標示版】
【写真2 『みやざき物産館KONNE』の標示版】
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今回は、地元・宮崎県にある同様の施設も東京のそれと名前を統一することで、よりいっそう一体感を持たせ、相乗効果を上げようと考えたものです。

「KONNE」は宮崎の方言「来んね」をローマ字表記にしたもので、〔(宮崎県に)来ない? (どうぞ)来ませんか? (ぜひ)いらっしゃいよ!〕という意味です。

東京店開業の際、平成9年9月1日から10月15日まで公募して寄せられた1157点の中から選ばれました。「KONNE」は、宮崎の方言を活かしており、多くの人に来てほしいという願いが込められていること、呼びやすいこと、などが、選ばれた理由だとのこと。

この2つに限らず、近年、方言をローマ字表記にして一見外国語ふうにしたり、「何だろう? どういう意味だろう?」と思わせて不思議さや目新しさを演出しようとする手法は、今ではすっかりお馴染みになり、定番化しています。

実際、「新宿みやざき館KONNE」の開業後、宮崎の方言だと知らない人たちからは「KONNEとは、何語なんでしょうか?」といった質問が多数寄せられ、中には「ちょっとフランス語のような響きですね」という感想もあったということです。

《参考》
①「KITEN」のホームページは //www.m-kiten.jp/ を参照。また②「新宿みやざき館KONNE」のホームページは//www.konne.jp/ を、③宮崎市の「みやざき物産館KONNE」はhttps://www.m-tokusan.or.jp/miyazaki/を参照。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。