地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第197回 井上史雄さん:方言絵はがきの盛衰とエクセル散布図の技法
Rise and fall of dialect postcards and a technique of Excel scattergram

筆者:
2012年4月14日

方言みやげのコレクションを整理していて、メモ用紙に気づきました。「1993.9.18青森方言みやげ」として、こう書いてあります。「絵はがき(観光1 こども1 マンガ6)、しおり3 手ぬぐい1 のれん2~3 状差し1 貯金箱1 グラス(同デザイン)大小3」。前日に青森市を歩き回って見つけた方言みやげの記録です。

絵はがきは買って、きちんと整理してあります。袋単位でなくはがきの枚数で数え直すと、観光8枚 こども8枚 マンガ40枚、計56枚です。このうちマンガは1970年前後に出たものが元になっていて、最近まで第1集~第4集(40枚)として売られていました。さらに単行本『図夢(ズーム)inつがる弁』に発展しました。

戦前の方言絵はがきは、桜井隆さんのコレクションをスキャナーにかけて、整理してあります。青森のを数えてみたら、37種ありました。8枚セットの一部が欠けたりしていますから、実際にはもっと多いでしょう。

戦後の青森方言絵はがきは、手元に28枚ありました。

以上をグラフにしようとしました。でも時期がばらばらです。調査の間隔を忠実に表わすに、エクセルのグラフの「散布図」を使いました。図をご覧ください。

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【図 エクセル散布図による青森方言絵はがきの盛衰】

方言絵はがきは戦前に盛んで、戦後衰え、国内旅行ブームのころ一時復活しました。青森で1990年前後に増えたのは例外で、マンガを活用したおかげです。他の場所ではほとんど見つかりません。実用としてはがきを出す機会が減っているからでしょう。でも実用にならないのは、他の方言みやげも同じかも知れません。

さて、エクセルの「散布図」の作り方。一方の行に調査年を西暦で入れ、次の行に数を入れます。この2行の数値を囲んで、上端ツールバーの「挿入」をクリック、「グラフ」をクリック、「散布図(直線とマーカー)」をクリックすると、図のようなグラフが出ます。

「折れ線」としてグラフ化した図にくらべて、四つの時期のへだたりが忠実に表わされます。「散布図」の適用例は雑誌「日本語学」2012年5月号の「ことばの散歩道」にも載っています。なお「軸のオプション」で「時系列」を選ぶという手法もあります。下記のサイトに出ています。

//oshiete.goo.ne.jp/qa/158509.html

方言絵はがきは、いくつかのインターネットサイトで見られます。「方言絵葉書」で「画像」を検索してください。また関係論文はgoogle scholar(グーグルスカラー)またはCiNii(サイニー)で「方言絵葉書」で検索すると見つかります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。