地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第198回 日高貢一郎さん:札幌の北海道立道民活動センター『かでる 2・7』

2012年4月21日

札幌市の中心部、北海道庁のすぐそばに『かでる2・7』という建物があります。北海道が運営している公共の複合施設で、市民に広く利用されています。
第121回『かだる』も参照)

正式な名称は「北海道立道民活動センター」と言い、『かでる2・7』はその愛称です。

【写真1】 『かでる2・7』の玄関横にある標示盤
【写真1】『かでる2・7』の玄関横にある標示盤
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「かでる」は地元の方言で〔集まる、仲間に加える〕という意味、「2・7」はニーナナと呼び、この建物がある場所、すなわち「北2条西7丁目」を表しています。(なお、「2・7」の真ん中の点は、小数点ではなく中点・中黒です)

まず、『かでる2・7』の前半の「かでる」ですが、共通語でも「かてて加えて…」という言い方があるように、古くは古語の「かつ(糅つ)」〔混ぜ合わせる〕に遡ることができる語で、後に「かてる」になりました。(果つ ⇒ 果てる、捨つ ⇒ 捨てる、なども同類)

北関東から東北・北海道方面では「カ行・タ行の子音が濁音化」する傾向がありますから、それが少し変化して「かでる」となったものです。

このセンターができたのは平成3年11月。方言で命名された施設としては、比較的早い時期に当たります。開館時に名前を広く公募し、1713点の中から選ばれたのだとのこと。

近年は、方言で名付けられたものの場合、ローマ字で表記されることが主流になっている感がありますが(第13回第143回第158回第193回などを参照)、当時はまだそうではなかったという点でも、逆に興味深いものがあります。

選考経過を書いた同館の資料によると、「かでる――」は方言がもつ特有の暖かさや地域性がよく表現されており、その意味あいもセンターのめざす理念やテーマをうまく表現している、また響きがよく読みやすい、などの点が評価されて決まったとのこと。

【写真2】『かでる2・7』の広報紙
【写真2】『かでる2・7』の広報紙
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応募作の原案は「カデル27」とカタカナ表記で中点なしだったのを、ロゴタイプ(マーク)としてはひらがなのほうが堅苦しさがなく柔らかみが感じられるなどの点を考慮して、ひらがな表記としてデザインしたことが記されています。

後半の『―― 2・7』にも注目しましょう。

札幌市の中心部では、地番を表す場合、「条」は東西に延びる通りを、「丁」は南北に延びる通りを示しています。新しく計画的な都市開発の下で作られた地域ならではの言い方で、いかにも札幌らしさが感じられるネーミングになっています。

《参考》
①『かでる2・7』のホームページは、//homepage.kaderu27.or.jp/ を参照。
②この連載の第13回「方言名の公共施設」のうち、青森駅前のAUGA(平成13年に開業)の中にある青森市男女共同参画プラザ「カダール」〔仲間になる〕は、「かでる」の自動詞形「かだる」にちなむもので、隣接県で似たような命名が行われており、興味深い類似です。ホームページはhttp://www.auga.aomori.jp/floor5.html を参照。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。