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Alone Again (Naturally) (1972, 全米No.1)/ギルバート・オサリヴァン(1946-)

2012年 5月 9日 水曜日 筆者: 泉山 真奈美

歴史を彩った洋楽ナンバー~キーワードから読み解く歌物語~ 第31回

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●歌詞はこちら
http://www.stlyrics.com/lyrics/thevirginsuicides/aloneagainnaturally.htm

曲のエピソード

ギルバート・オサリヴァン(アイルランド生まれのシンガー/ソングライター)の名前を知らなくても、この曲を耳にしたことがある人は結構いるのではないだろうか。日本のCMやドラマでも起用されたことがあり、今でもラジオで耳にすることがある。

ほんわかとしたメロディと優しく語りかけるようなヴォーカルとは裏腹に、じつはこの曲は「自殺予告ソング」である。主人公は、結婚式の当日に花嫁に逃げられてしまう青年。歌詞の内容が多くの共感を呼んだのか、1972年当時、全米とアダルト・コンテンポラリーの両チャートで6週間もの間、No.1の座に君臨した。ヒットしていた当初から、曲の内容がギルバートの実体験に基づいたものではないか、とまことしやかに囁かれたが、彼自身はきっぱりとそれを否定。彼が11歳の時に父親を亡くしたことや、両親の仲が悪く、幸せな子供時代ではなかったことは歌詞の内容と呼応するものがあるが、この曲を彼が作った時、実際には母親は健在だった。

曲の要旨

教会で行われることになっている結婚式に参列した人々が、にわかにざわめく。花婿はとっくに到着しているのに、いつまで経っても花嫁が姿を現さない。時間だけが容赦なく過ぎていく。手持ちぶさたの参列者たちは、諦めて帰り支度を始めてしまう。残された花婿。その青年は、必ずしも幸せな幼少時代を過ごしたとは言えず、先に父が亡くなり、やがて母も亡くして孤独に苛まれて生きている。そして、ようやく「家族」と呼べる生涯の伴侶を得ることになった結婚式の当日、花嫁は遂に姿を現さず、彼は裏切られたことを知のだった。「(これまでもそうだったように)また独りぼっちになってしまった」ことに絶望した主人公の青年は、近所にある高い塔のてっぺんに登ってそこから投身自殺を図ろうと思い立つ……。

1972年の主な出来事

アメリカ: 6月17日にウォーターゲート事件が発覚。
日本: 浅間山荘事件が日本中を震撼させる。
田中角栄首相が訪中し、日本と中国の国交が回復。
世界: 東ドイツと西ドイツの国交が正常化。

1972年の主なヒット曲

American Pie/ドン・マクリーン
A Horse With No Name/アメリカ
The Candy Man/サミー・デイヴィス Jr.
I Can See Clearly Now/ジョニー・ナッシュ
Papa Was A Rollin’ Stone/テンプテーションズ

Alone Again (Naturally) のキーワード&フレーズ

(a) treat oneself
(b) throw someone off
(c) alone again naturally
(d) God rest one’s soul

もうだいぶ前の話だが、日本の某保険会社がこの曲をCMソングに起用したことがある。昔から「自殺予告ソング」であることを知っていたので、あの時は本当に肝を冷やした。今でこそ、歌詞の内容が理解されるようになり、ネット上でも「ブラックな選曲」(ブラック・ユーモアが利き過ぎている、ということだろう)と指摘する人もいて、ちょっぴりホッとする。耳に心地好くて優しいメロディにうっかりつられ、TPOを全く考えずに洋楽ナンバーを起用するとトンデモナイことになる、という好例(悪例?)になりやすい曲、それがこの「Alone Again (Naturally)」だ。まさか「弊社では、自殺をなさった方にも保険金が出ます」と言いたかったわけではないだろう。ちょっと意地悪な言い方だけど。

もうそろそろこの曲の真意が日本でも理解されてきただろう、と思っていた矢先、こんなことがあった。家人が教えてくれたのだが、何気なく聞いていたラジオから、パーソナリティーの明るい声と共に、この曲が流れてきたという。「では、東日本大震災で被災された方々への励ましとして、次の曲を贈ります。ギルバート・オサリヴァンの『アローン・アゲイン』」――家人曰く「あれじゃ逆効果だろう」――同感。もちろん、リスナー全員が洋楽ナンバーの歌詞を理解して聴いているわけではないだろうが、そこのところ、もう少し斟酌してくれてもいいのではないか、と思う。よりにもよって「(今までもそうだったように)また独りぼっち」と歌っているこの曲を被災者の方々に捧げるなんて……。

辞書の“treat”の項目にイディオムとして載っている(a)は、“treat oneself to ~(~を奮発して買う、~を思う存分に楽しむ)”というように使われる。それらの意味をひとまとめにするなら「思いっ切り贅沢をする」となるだろうか。この曲では、主人公が「自分を treat することを自分に誓う」という風に使っているが、一見してやや意味不明。何故なら、このフレーズの直後で例の「自殺予告」をしているから。となると、彼にとっての“treat”がどんなことを指しているのかを考えなければならない。どうやら、今まで孤独に耐えてきた彼は、実に忍耐強い人間のようだ。ところが、花嫁が結婚式の当日に教会に姿を現さなかったことで、彼の忍耐を支えていた何かが脆くも崩れ去ってしまったのではないか。そして彼は思うのだ。「もう自分の好きなようにさせてもらう(=こうなったら死んでやる)」と。彼にとっての“treat”は、高価なものを奮発して買うことでも、羽目を外して何かを存分に楽しむことでもない。「自分の意のままにさせてもらう」ことなのだ。こんなに哀しい“treat”が他にあるだろうか?

この曲が「自殺予告ソング」であることがハッキリするのが、(b)のフレーズ。“throw ~ off”には、「~を投げ落とす、振り落す」の他に、「(古くなった衣類や古い習慣などを)捨て去る、かなぐり捨てる」という意味もある。もちろんここでは、「自分自身を(高い場所から)投げ落とす」、つまり「投身自殺を図る」の意味で使われているが、「古い習慣をかなぐり捨てる」の意味をそこに付加すれば、「これまで孤独に耐えてきた自分自身とおさらばする」というダブル・ミーニングにも思えてくるから不思議だ。が、主人公が過去の自分と決別するための手段に選んだのが投身自殺では、余りに悲しい。

タイトルで肝心なのは、カッコで括ってある“(Naturally)”。「自然に、ありのままに」の他に、「生まれつき、生まれた時から、生来」といった意味があり、この曲では後者の意味として使われており、曲の主人公が生まれてこの方ずっと孤独だったことを暗喩している。わざわざカッコの中にその単語を入れてタイトルにしたことにも、何らかの意図を感じずにはいられない。単に「また独りぼっちになっちゃったよ」ではなく、「(今までもずっとそうだったように)また独りぼっちになった」ことの悲哀が、このカッコ括りの“(Naturally)”に如実に表れている。カッコなしの「Alone Again Naturally」よりも、主人公の青年が抱えてきた孤独感の度合いが深まるタイトルだ。

クリスマス・ソングの定番に、讃美歌の「God Rest You (or Ye) Merry, Gentlemen」(『讃美歌第二編』128 「世のひと忘るな」)というのがある。タイトルは“God bless you!(あなたに神の祝福がありますように!)”同様、仮定法現在形で、ある種の決まり文句を踏まえたもの。もしもこれが仮定法でないなら、“God rests …”となるはずだ。が、(d)は“God rests one’s soul”ではないので、やはりここも仮定法現在形。主人公の父親が亡くなった際に余りに嘆き悲しむ母親を目の当たりにして、彼は“God rest her soul!(「神様、母の魂をお救い下さい!」)”と懇願する。意訳するなら、「神様、母の悲しみを鎮めて下さい!」。そして、その母もやがてこの世を去り、主人公の青年は天涯孤独となってしまう。その彼に、やっと心の安らぎをもたらしてくれるであろう伴侶が見つかったというのに――。彼の絶望感は、推して知るべし、である。

この世の悲しみを一身に背負ったかのような主人公は、この先、本当に高い塔から飛び降りたのだろうか……? 曲のストーリーは、そこまで描かれていない。なので、「自殺予告ソング」なのである。ギルバート本人は、1980年に晴れて結婚し、二人の娘を設けている。人並みに幸せな結婚生活を送ったようだ。それ以前に、彼が実際に花嫁に逃げられた悲惨な体験があったかどうか、彼は黙して語らずのままだ。

【筆者プロフィール】

泉山真奈美(いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「リリック英文法」)の講師を務める。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。近作はマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツ。

2012年 5月 9日