大規模英文データ収集・管理術

第24回 「分類」の構成・9

筆者:
2012年5月14日

(3) 表現別・4

今回が「表現別」の最後になります。今回も、これまでと同様、たくさん集まった英文データの分類工程について説明していきます。今回は、必ずしもすっきりと品詞別には分類できない表現、しかし、技術文では重要で、頻出する表現として、「傾向」「場合」および「範囲」の3つを選びました。今回は、(1) 英文データの分類と、(2) 重要な項目に対する対応英語の付与、この2つを同時におこない、前よりも説明を簡単にしてあります。

1)傾向

a)傾向
  tendency
b)――の[――への]傾向
  ―― tendency
  tendency to [toward] ――
  movement to [toward] ――
c)……する傾向
  tendency to-不定詞
  trend to-不定詞
  inclination to-不定詞
d)――が……する傾向
  tendency of [for] ―― to-不定詞

2)動向・趨勢・傾向

a)動向・趨勢・傾向
  trend
  move
  inclination
b)――の動向・趨勢・傾向
c)――への動向・趨勢・傾向
d)動向[趨勢,傾向]は――に向いている

3)……する傾向がある

a)――は……する傾向がある
  ―― tend to-不定詞
  ―― have a tendency
  There is a tendency to-不定詞
b)――は____を……する傾向がある
  ―― tend to-不定詞 ____
c)――は____ が……する傾向がある

4)……しやすい,……しがちである

a)――は……しやすい[しがちである]
  ―― is liable to-不定詞
  ―― is liable 名詞
  ―― is prone to-不定詞
  ―― is prone 名詞
  ―― easily ……
注:この場合の「名詞」とは、動詞から転じている名詞で、日本語で考えるときは、元の動詞に変換することが多い名詞です。
b)――は……しがちである[しやすい]

5)――は____を受けやすい(受けにくい)

a)――は____を受けやすい
b)――は____を受けにくい[しにくい]

6)……しがちの――

次は、「場合」です。

1)――の場合(Ⅰ)
注:「場合」を表す言葉には、case, event, instance, occasionなどいろいろありますが、ここでは、便宜上、caseという言葉で代表させることにします。

a)すべての場合
  in all cases
b)ほとんどの場合
  in most cases
c)多くの場合
d)このような場合
  in such a case
  in such cases
e)ある場合
f)この場合
g)これらの場合
h)その場合
i)両方の場合
j)いずれの場合も
  in either case(肯定文)
  in neither case(否定文)
k)それぞれの場合
l)ほかの場合
m)いろいろな場合
n)二,三の場合
o)その場合
p)いかなる場合にも
  in any case(肯定文)
  in no case(否定文)
q) その他

2)――の場合(Ⅱ)

  in case of ―― (ifに近い)
  in the case of ――(whenに近い)

3)――の場合(Ⅲ)
for, in, on, withなど、単体の前置詞に表わすことも多い

4)――の場合のように

  as in the case of ――

5)――が[を]……する[である,な,の]場合

  when ―― ……
  if ―― ……
  in applications where ―― ……(「アプリケーション」とか「場」というニュアンス)
  on occasions when ―― ……
  in the event that ―― ……

6)いかなる場合も

a)いかなる場合も
b)いかなる場合も――は……しない[ではない]
  in no case ―― ……

7)万一(もし)――が……する[である]場合

8)その他

a)場合に応じて
  as the case may be
b)このような場合には
  if this is the case

最後は、「範囲」です。
(凡例:――および===:名詞、……:物理量、xxxおよびyyy:数値+単位)

1)xxxからyyyの範囲にわたる[及ぶ,ある](動詞形)

a)――は===から===の範囲にわたる
  ―― ranges from === to ===.
b)……はxxxからyyyの範囲にわたる
  ―― ranges from xxx to yyy.
注:xxxには単位は付けません。
c)――は……がxxxからyyyの範囲にわたる
  ―― ranges from xxx to yyy in …….
  ―― ranges in …… from xxx to yyy.
d)――の……はxxxからyyyの範囲にわたる

2)xxxからyyyの範囲の(形容詞形)

a)===から===までの範囲の――
b)xxxからyyyまでの範囲の……
  …… ranging from xxx to yyy
c)……がxxxからyyyまでの範囲の――
  ―― ranging from xxx to yyy in ……
  ―― ranging in …… from xxx to yyy

3)xxxからyyyまでの範囲

a)xxxからyyyまでの……範囲
b)xxxからyyyの範囲で
c)xxxからyyyまでの……範囲で

4)xxxまで

a)xxxまでの……(下から上方向への場合)
  …… up to xxx
注:わかりきった状況下では、upを省略してtoだけで表現することもできます。
b)xxxまでの…… (上から下方向への場合)
  …… down to xxx
c)……がxxxまでの――(下から上方向への場合)
d)……がxxxまでの――(上から下方向への場合)

5)範囲(名詞形)

6)広範囲な……

  a wide range of ……
  a wide …… range
注:ofの後ろに物理量が来た場合には「広範囲な……」という意味ですが、普通名詞が来た場合には、「いろいろな――」という意味になることが多いようです。

7)……の範囲における――

8)……の範囲で

a)……の範囲で
b)……の――から――の範囲で
c)……の広範囲にわたって

9)……の範囲に収まる

これで、4回にわたって述べてきた、(3) 表現別を終わります。70個あるうちのわずか5個しか取り上げることができませんでしたが、英例文を集めさえすれば、このように分類できるということ、そして、たくさん集めさえすれば、今まで見てきたような最終の姿(ステップ5)に近いものができるのだということはお分かりいただけたと思います。

なお、もし70個の表現の分類表をご覧になりたい方は、拙著「科学技術英語表現辞典」(第3版、オーム社)をご参照いただきたいと思います。

次回からは、4回にわたり、(4) 品詞別について述べることにしています。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。