地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第205回 大橋敦夫さん:新潟弁ネイティブによる新潟弁カレンダー

筆者:
2012年6月9日

新潟市出身の書家・五十田順子さんと、同市出身の墨絵画家・勝又潔さんによって、新潟弁カレンダー「なじらね にいがた弁」[=どうでしょう 新潟弁]が作られました。

(画像はクリックで拡大表示)

【写真1 新潟弁カレンダー】

 「おばさ あかぶてるて」[=姉さんが赤ちゃんをおんぶしているよ]

 「すっげ いっぺらあ」[=すごく たくさんある]

 「あんべどうらね」[=具合はいかがですか]

 「だあすけ そうらて」[=だからそうなんです]

など、31の表現が筆文字とイラストで構成されています。つまり、月を問わずに使える日めくり式のカレンダーです。(後表紙に、共通語訳の一覧がついています。[ ]内は、その訳文です。)

長野県の女子大学で、新潟出身の学生に見せたところ、県西部の上越市出身の学生は、わかる表現は「いっぺ」「あんべ」など、2割ぐらいで、そもそも「なじらね」がわからないということでした。

新潟市出身の学生は、さすがに7割ほどは使うということでしたが、それでもすべて理解するというわけには、いきませんでした。ともに3世代同居の家庭に育ち、地元の方言には比較的なじみのある層ですが、南北に長い新潟県内の方言差と、世代差とが反映していると思われます。

発行元の第一印刷所(新潟市中央区)では、

 新潟弁のおもしろさが1年中楽しめる。土産品として新潟をアピールする際に使ってほしい。

とコメントされていますが、地元・新潟県内の家庭でも、教材になると言えそうです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。