大規模英文データ収集・管理術

第26回 「分類」の構成・11

筆者:
2012年6月11日

2 冠詞

「冠詞」は日本人にとって苦手な品詞です。しかし、どんなに難しくても、最低限押さえておかなければならない点があります。「トミイ方式」では、それを、学校文法の分け方と少し違いますが

1 冠詞全般
2 定冠詞
3 不定冠詞

の3つに「細分類」してあります。

1 冠詞全般は、場合によって「定冠詞」になったり「不定冠詞」になったり、時には「無冠詞」になったりする用法をまとめています。

2 定冠詞は、いかなる場合でも「定冠詞」でなければならない用法を、3 不定冠詞は、いかなる場合でも「不定冠詞」でなければならない用法を、それぞれまとめています。

1 冠詞全般

「冠詞全般」は、次の9つに「細々分類」されています。

(1) 数量語句と共に用いられる冠詞
(2) 種族全体を現す場合の冠詞
(3) 冠詞と無冠詞
(4) 冠詞の反復
(5) 冠詞の省略
(6) 物理量と冠詞
(7) 部品名に付ける冠詞
(8) 冠詞の位置
(9) 肩書きなどにつける冠詞

しかし、今まで繰り返し述べてきたように、英文データを収集し始めた当初からこのような分類があったわけではありません。最初は、「定冠詞」、「不定冠詞」、「無冠詞」の3つぐらいに大分けしていたという記憶があります。そして、「冠詞」だけの収集点数が800点から1,000点くらい集まった時点で、「冠詞」を「冠詞全般」、「定冠詞」、「不定冠詞」の3つに「細分類」し、その後、2,000点くらいになってから上記のような9つの「細々分類」をしたように記憶しています。

これから始める人は、筆者のように「小分類」、「細分類」、「細々分類」というようにステップを踏んで収集していく方法か、あるいは、すでに筆者が完成させている既存の分類を活用し、収集した英例文を、その既存の分類の中に流し込んでいくだけでよい方法か、いずれかの方法を選択することができます。

実は、上記9つの「細々分類」にとどまらず、それをさらに「極細分類」までしてありますが、詳しくは別の機会に譲ります。

ここでは、これら9つの「細々分類」のうち、次の3つについて順に述べていきます。

(1) 数量語句と共に用いられる冠詞

ここには、「極細分類」として、次の2つがあります。

(i) ある1点の物理量を表わす時は不定冠詞
(ii) 範囲のある物理量を表わす時は無冠詞

簡単な例で示しますと(i)の例としては

a temperature of 100?C (100?Cの温度)

です。

不定冠詞+物理量の名称+of+数値+単位

で表わします。ここ5つの要素については、この連載の「(6) 数量表現別」のところで詳述します。

(ii)の例としては

temperatures up to 100?C (100?Cまでの温度) (up toは下から上方向への「まで」です)

です。

無冠詞+物理量の名称(複数形)+範囲語+数値+単位

で表わします。これについても、「(6) 数量表現別」で詳述します。

(2) 種族全体を現す場合の冠詞

ここには、「極細分類」として、次の2つがあります。

(i) 不定冠詞(aまたはan)+単数名詞
(ii) 無冠詞+複数名詞

中学校英語でお馴染みの簡単な例で示しますと、次のようなものになります。

(i) A dog is a faithful animal. / A horse is a powerful animal.

(ii) Dogs are faithful animals. / Horse are powerful animals.

わかりきったことのようですが、この種の英例文を実務文からたくさん集めると、意外に、ものすごい大発見をすることがあります。

(3) 冠詞と無冠詞

ここには、一部の文法書には書かれてはいますが、英文データを収集し、それを分類して初めて知った、意外にあまり知られていない、大事なことが分類されています。それは

(i) 冠詞+形容詞+and+冠詞+形容詞+単数名詞
(ii) 冠詞+形容詞+and+無冠詞+形容詞+複数名詞

という「極細分類」です。

(i) の例としては、次の英文です。

Each pole has a normally open and a normally closed contact.

ボールド体になっている冠詞(定冠詞の場合も不定冠詞の場合もあります)を付けると名詞(この場合はcontact)はたとえ2個あっても単数形になるということです。

(ii) の例は次の英文です。

The input and φoutput devices are usually separate frames, or boxes, as are memory and magnetic drums and tapes if any.

一方、無冠詞(φで表示してあります)だと名詞(この場合はdevice)はdevicesのように複数形になります。
要するに、(i)のように冠詞があれば名詞は単数形、すなわち、「冠単」と覚えておくと「簡単」に覚えられるということです。冠詞がなければ、その反対ですから、(ii)のように名詞は複数形ということになります。
これは、英和翻訳の場合には間違うことはありませんが、和英翻訳の際には、十分気を付けないといけません。

2 定冠詞

「定冠詞」は、次の4つに「細々分類」されています。

(1) 二度目以降に出る場合
(2) 修飾語が後置されている場合
(3) 序数詞の前
(4) 基数詞の前

(1) 二度目以降に出る場合

Use a long round bar to remove the ring from the shaft. The bar should be 2 mm or smaller in diameter.

a long round bar の不定冠詞 a が、二度目に出てくるときは定冠詞 the になるということは中学校で習ったことで、誰でも知っています。しかし、この場合、ただ a が the に変わったというだけではなく、the の中には long round までも包含しているということが、この例文からわかります。ここに定冠詞の大事な役割があります。

例えば、「入/出力制御装置」という言葉が頻繁に出てくる和文を英訳する場合、最初に出てきた時は an input/output controller と訳します。その後この言葉が何回も出てきた場合、日本語では、最初から最後まで、徹頭徹尾、「入/出力制御装置」という言葉を繰り返しますが、英語では、最初は an input/output controller としても、二度目以降に出てくるときは、周辺に混同されやすい controller がない限り、単に the controller です。すなわち、the は、ただ a が the に変わっただけではなく、input/output という意味も含まれているということです。この用法は、英和・和英、いかなる翻訳の時も非常に大事です。

3 不定冠詞

「不定冠詞」は、次の6つに「細分類」されています。

(1) 最初に出る場合
(2) 二度目以降でもいくつかあるうちの1つの場合
(3) 強いoneを意味する場合
(4) 修飾語が後置されていてもいくつかあるうちの1つの場合
(5) 序数詞の前でも順序を表わさない場合
(6) a と an の使い分け

どれもこれも技術英語の学習および技術翻訳の技能向上には大事なことばかりです。とくに(2)(4)(5)は、非常に大事で、ぜひ、「トミイ方式」を通して英例文をたくさん集め、学習していただきたいと思います。

「冠詞」については「技術翻訳のテクニック」および「続・技術翻訳のテクニック」(いずれも、丸善、富井篤著)があり、参考になります。

次回は、10 to-不定詞です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。