地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第207回 井上史雄さん:スーパーマンのスーパー方言調査でごわす
Super market dialect research by a superman on “de gowasu”

筆者:
2012年6月23日

方言研究の大先輩は、旅先の店で商品の方言の違いに注意を払いました。筆者も旅先でスーパーマーケットに入って、品物の方言差を記録しています。今は近所のスーパーマーケットでも方言調査ができます。商品が全国的に流通するようになったからです。先日近所のスーパーで「でごわす」を使っているパックが目について、鹿児島方言の証拠物件として買いました。中身は切干大根ですから、実用にもなります【図1】。

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【図1】千切大根でごわす

食べる前に写真を撮ろうとして気づきました。「千切大根でごわす」と書いてあります。「千切大根」という言い方は初めてです。さっそくインターネットで検索して調べました。宮崎に多い言い方と書いてあります。さらに、「グーグルインサイト」を呼び出して、日本地図を出しました【図2】。確かに南九州に多いのですが、関西と首都圏にもあります。

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【図2】「千切り大根」のグーグルインサイト地図

他の方法でも地域差を確かめました。Yahooなどの検索で、単語のあとにsite: lg.jpと入れると、地方自治体のホームページだけが出てきますから、どの県で使われているかがすぐに分かります。「千切り大根」は宮崎県以外に西日本のあちこちで使われることが分かりました。東日本では「切干大根」「切り干し大根」と言います。気づかない方言の例がまた増えたことになります。

若者ことばで「スーパーマン」というとスーパーで買い物する男を指します。その応用で「スーパー方言調査」が可能です。またインターネットで方言を調べるのは、もう一つの「スーパー方言調査」です。

なおグーグルインサイトは162回167回172回でも使われています。また第63回に、宮崎県の「刈干切歌」に関連して「切干(大根)」への言及があります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。