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地域語の経済と社会 第208回 『方言トランプ』あれこれ

2012年 6月 30日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第208回 『方言トランプ』あれこれ

 室内でのカードゲームで、根強い人気のあるもののひとつが、トランプでしょう。

 そのバラエティーとして、通常のトランプのカードに、その土地の方言(語や句)を併せて印刷し、トランプとは違ったもう一つ別の遊び方もできるようにした『方言トランプ』が、各地にあります。2008年から2012年にかけて作られています。

(写真はクリックで拡大)
【写真1】各地の『方言トランプ』
【写真1】各地の『方言トランプ』
【写真2】『広島弁トランプ』
【写真2】『広島弁トランプ』

 いま手元にあるものでは、北から南に「北海道弁、東北弁、名古屋弁、京都弁、大阪弁、広島弁、九州弁、熊本方言、沖縄弁、うちなーぐち」など、全国各地に及んでいます。

 このうち熊本のには「くまモン」という、現在人気上昇中の県のPRキャラクターが、うちなーぐちには「琉神マブヤー」という同様のご当地ヒーローが登場しています。

 ハート・ダイヤ・クラブ・スペードの各1~13までの計52枚+ジョーカーの合計53枚(ジョーカーが2枚ある場合は54枚)のカードに、その土地の代表的な方言を1語ずつ中央に大きく印刷し、その意味は同じカードの隅のほうに逆向きに小さく印刷してあります。

 肝心のトランプのマークと数字もありますが、それは片隅に遠慮がちに印刷されています。いわばハイブリッドのトランプです。

 『方言トランプ』の遊び方としては、読み手が全部のカードを持って順次方言を読みあげていき、参加者はその意味を答え、正解者にそのカードを渡すという方法がいちばん向いているでしょう。解答する人が多数いた場合には、いちばん早く正解を答えられた人に渡す、というのをルールにするといいでしょう。

 つまり、クイズ形式で方言の意味を正しく答えられるかどうかを競うわけで、終わったときに各自が取った数の多少で優劣が決まります。

 この連載の第33回『方言かるた』あれこれで、うまく活用すれば、特に幼い子供たちにとっては、遊びながら、地元の(廃れつつある、知らない)方言と出会い、覚えるきっかけになる、という効能があることを紹介しましたが、「方言トランプ」もまったく同様の機能を発揮することが期待されます(「方言かるた」については、第35回第82回第105回も参照)。

 かるたもトランプも、“遊びながら、楽しんで、知らず知らずのうちに記憶に残る、自然に覚えられる”というところがミソでしょう。

 しかし、単語や句を、文脈から切り離して単独に学習することになりますから、実際の会話の中での使い方はさらに実地に学ぶ必要があります。

 が、少なくとも「自分の知らない、こういう方言があるのだ」という意識と知識はしっかり頭に残りますから、子供たちに地元の方言に関心をもってもらうためのきっかけづくりとしては大いに効果を発揮しそうです。

 また、他の地域の方言トランプの場合には、子供たちだけでなく大人にとっても、「へぇ、この地域には、こういう意味の、こんな方言があるのか」と新たに学習し、知識を広げる機会になります。

 先の10種のトランプのうち、「京都弁、熊本方言、うちなーぐち」以外の7つは、大阪にある同じ会社が作っています。

 「取り上げてある語や表現は、だれが、何から、どうやって選ぶのか」を聞いたところ、「方言の選定は弊社スタッフが行い、本やインターネット等から情報を集めてリストアップし、整合性を確認します。その後、大阪府下にある各県の県人会やその土地にいる知り合いの人の協力を得て、より正しい表現になるよう心がけています」とのことでした。

 うちなーぐちの場合は、地域や島々による違いも大きく、首里方言をベースにして、方言や民俗などに詳しい地元出身の作家に監修を依頼しているということです。

 箱には「注意:地方や地域によって言葉の表現や意味合いが異なる事がございます」と、断り書きがしてあるものがほとんどです。

 たしかに同じ県内でも1つの語に地域差や世代差があることはそれほど珍しいことではありません。まして東北、九州など広い地方を対象にした場合にはなおいっそうそういうことがありそうです。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2012年 6月 30日