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地域語の経済と社会 第210回 方言かるた3種(長野県)

2012年 7月 14日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第210回 方言かるた3種(長野県)

 第35回の紹介後、長野県内の方言かるたに新たな3種が加わりました。

①りんご丸の信州方言かるた

 長野朝日放送が、信州の方言を使った読み札を公募。監修は、長野県方言研究の泰斗・馬瀬良雄氏(信州大学名誉教授)。同局アナウンサーが読み手となったCD付きです。

【写真1】  【写真7】 【写真8】
(写真はクリックで拡大表示)

 ご覧のように、同局のイメージ・キャラクター「りんご丸」があしらわれたデザインです。制作に関わるお話をおたずねしてみました。

●信州の方言をモチーフにかるたを制作された意図は?

 信州の方言がわからない子供がたくさんいるという近頃、世代を超えて信州の文化や風習を学び、共通語では決して伝わらない信州の方言ならではの魅力を伝えていきたい。との思いからです。

●制作にあたって、苦労した点、工夫されたところは?

 長野県は面積が広いため、方言も地域ごとにさまざまであり、全県の人がわかるような方言を選ぶと同時に、地域特性のある方言については、地域が偏らないようにするなど工夫しました。

 また、すべての文字を方言で始まるようにしたので、方言が当てはまりにくい場合もあり、あまり馴染みのない方言を使わざるを得ない例もありました。

 ほかに、方言にあった面白くかわいい絵をあわせるのにも力を入れました。

●販売後の反響はいかがですか?

 県内大手の書店やコンビ二、幼稚園などからの反響が良く、問い合わせも多数いただいています。

 なお、大牟田市立三池カルタ・歴史資料館(福岡県)に寄贈したので、長野県以外の地域でも機会あるごとに展示公開されています。

②祢津(ねつ)方言カルタ おらほ

 長野県の東部地域にある東御(とうみ)市の祢津地区活性化研究委員会が、祢津小学校児童の協力を得て制作。同委員会は、これまで方言集『おらほ』(平成14年)、『地区の言い伝え』(平成16年)を刊行し、地区全戸に配布。方言や伝説などの伝承・保存に力を尽くしてきましたが、今回は、4年生の総合的な学習の時間の中で、カルタづくりに取り組んだ成果を披露することとなったものです。

 制作には、長野県の「地域発元気づくり支援金」が活用され、平成22年度の優良事例として、先ごろ知事表彰されました。

【写真2】
(写真はクリックで拡大表示)

③飯綱町方言かるたトランプ

 ありそうでなかった方言トランプが第208回で、多数紹介されましたが、これもその一例になるものです。

【写真3】    【写真4】
(写真はクリックで拡大表示)

 長野県北部の飯綱町の方言を素材にしたものです。箱絵の説明に、「方言カルタができます。トランプができます」とあるように、一組で二つの役割を果たします。

 ところで、トランプは53枚、かるたはふつう44枚と、枚数にズレが出ますが、このかるたでは、濁音(13音)と撥音(1音)を積極活用。

  があたく坊主[=いたずら坊主]    ずくをだせ[=やる気をだせ]

  びしょってない[=みすぼらしい]   んにゃ、なーしてだ[=いや、どうしてだ]

など、特徴的な語彙を挙げ、これによって、ズレを埋める工夫をしています。

 一方、単語の見つけにくいラ行(5音)は、読み札を作らない割り切りと、JOKERの札は、

  ばばい よて[=汚い てぬぐい]

という遊び心も見せています。

 制作過程や形態に、また新種があらわれました。次は、どんなものが登場するやら、楽しみなところです。

 なお、第33回で、全国のかるたのホームページにリンクがはられています。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

大橋敦夫先生監修の本大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2012年 7月 14日