三省堂辞書の歩み

第7回 独和新辞林(袖珍独和新辞林)

筆者:
2012年8月8日

独和新辞林(袖珍独和新辞林)

明治29年(1896)9月19日刊行
高木甚平、保志虎吉共編/本文1539頁/袖珍判(縦91mm)

【独和新辞林】11版(明治33年)

【本文1ページめ】

三省堂による初めての独和辞典の出版は、仏和辞典より10年も後だった。我が国のドイツ語辞書の出版も、英語辞書やフランス語辞書より遅れ、明治5年から始まる。その後の出版点数も、やはり英和や仏和より少なかった。

本書は、他社との差別化を意識した袖珍サイズ(厚さは4cm前後)で小さな七号活字を使い、英語の辞書編集によって蓄積されたノウハウを駆使している。原稿は、三省堂の斎藤精輔が多くのドイツ辞書を参照しながら独英辞典を翻訳して完成させたという。

ドイツ語にはドイツ文字(亀の甲文字)が使われ、複合語は主となる語の項目に集めてある。語釈は原義を先に、転義を後に掲載し、異なる語義を番号で区別した。分野別の表示をして、漢語と和語、雅語と俗語の両方を用いるように努めている。また、ラテン語やフランス語、英語などの外国語にも表示を設け、人名・地名などには英語を付記してある。

なお、本書の表紙や扉の書名には「袖珍」が付かないが、本文の最初にある内題には「袖珍」が付き、出版当初から両用していた。国会図書館所蔵本は扉や序文・判例などの前付けが欠落しているため、内題を書名としたようだ。

●最終項目

zyfelmaus, f.〔動〕.ヤマネ(日光方言)又フクネヅミ

●「猫」の項目 Katze

●「犬」の項目 Hund

◆辞書の本文をご覧になる方は

独和新辞林:

近代デジタルライブラリー『袖珍独和新辞林』のページへ

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。