地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第220回 大橋敦夫さん:群馬の「だんべ」

筆者:
2012年9月22日

信州から上州に入ると、途端に風景が変わります。「関東平野」と言われるごとく、山の稜線がはるかに遠のいて、広々とした眺めになります。
 峠を越えれば、言葉も変わることは、古来意識されてきたようで、意志・勧誘・推量の助辞の違いに目を向けた川柳や駄洒落が各地に伝えられています。

万座峠(長野県上高井郡高山村牧と群馬県吾妻郡嬬恋村の境)には、

此の処アチャとダンベの国境

があり、碓氷峠(長野県北佐久郡軽井沢町と群馬県松井田郡横川町の境)には、

碓氷峠の権現様はズラとダンベの国ざかい

があります。

その「だんべ」を看板に大きく掲げるお店(居酒屋)がJR高崎駅前にあります。

【写真1】
【写真2】
【和ダイニング だんべ。】

代表の別府公博さん(東京都出身)にお話を伺ってみたところ──
 群馬の地で、群馬産の食材を中心に扱うというお店のコンセプトを打ち出すために、群馬の方言を是非とも使いたかったこと、加えて、自分の苗字の音(ベ)を生かしたかったとの由。
 店名も効いてか、現在、地元の常連さんと観光客が半々を占めているそうです。

このほか、Yahoo電話帳(第142回で紹介)などを見ると、群馬県内には、「だんべ」「だんべえ」を命名に用いているものとして、

 前橋市 「だんべうどん」(うどん店)
「前橋だんべえ踊り」(市民まつり)
 高崎市 「だんべえ本舗風間堂」(菓子舗/薄皮饅頭「だんべえ」)
「上州だん米(べえ)焼き」(餅菓子)
 渋川市 「段兵衛」(ラーメン店)

などがあります。

群馬県の皆さんの「べーべーことば」に対する強い愛着は、

上州のべーべー言葉がやんだらべー なべやつるべは どうするべー
[=上州の「べー」という言葉がなくなってしまったら、鍋や釣瓶は、何と表現したらよいのだろうか]

という狂歌が地元で伝えられていることにもよくあらわれています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。