地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第224回 山下暁美さん:応援にこたえる言葉(宮城県)

筆者:
2012年10月20日

「えぃくそっ 負げねーど!!(負けないぞ)」【写真1】は、仙台市内で見つけたポスターの一部です。東日本大震災で被災した企業がやっとの思いで操業再開にこぎつけたときの叫びです。これは、多くの日本人が今共感できる言葉といえましょう。

【写真1】
【写真1】

【写真2】は、「うめばりいっそだがら あがいん(とにかくおいしいから、いちど食べてみろぉ~)」とあります。

これは、被災者だからといって立ち止まっているわけにはいかないと、女性2人が昨年6月に立ち上げた宮城県の海苔の会社のメッセージです。宮城県石巻市では感謝の味噌「希望」、「感謝」と命名された味噌が販売されるなど応援のことばに答える言語表示が見られるようになりました。

(写真2・3はクリックで全体を表示)

【写真2】
【写真2】
【写真3】
【写真3】

「あがいん」は、「あがる(食べる)」+「~いん」ですが、「~いん」は「~らいん」と同様「ございん(いらっしゃい)」「写真ば見らいん(写真を見なさい)」のようにやさしい命令を表現する形式です。「新聞持ってきてけらいん(持ってきてください)」などと言います。宮城県南部に行くと「ああそうがいん(ああそうですか)」のような用法もあります。

仙台市商店街の路面【写真3】に「よぐござったごだ(よくいらっしゃいました)」「まだおんなしてくないん(またおいでください)」と書かれています。この路面標示は以前からあるものですが、「おんなしてくないん」の「~いん」が「あがいん」の「~いん」と同じ用法なので紹介しておきます。「来てください」だと「来てけさいん」となります。やさしく命令する表現のなかに相手を思いやる心が語尾に込められています。

『NHK 21世紀に残したい宮城のことば10』に「ございん(いらっしゃい)」「~けさいん(~してください)」が選ばれています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。