地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第227回 井上史雄さん:方言絵はがきのピーク 大阪弁
The peak of dialect picture postcards — Osaka dialect

筆者:
2012年11月10日

方言絵はがきは、戦前にかなり出されたようです。桜井隆さん(注1)のコレクションをスキャナーにかけて、公開しようと計画しています。

絵はがきはたいてい8枚セットですが、中に16枚セットの方言絵はがきがあります。大阪と京都と天の橋立の3か所で見つかっています。観光客が多くてよく売れたのでしょう。

図1体

「大阪言葉説明入 大阪名所ゑはがき」16枚セットの1枚を紹介します。通天閣です。方言の説明を下に記します。促音「ッ」や拗音の「ャュョ」を小さく書いてないので、実際の発音が分からないことがあります。読み取れない文字があり、誤植かもしれない表記もあります。「エレベーター」「映画館」にあたる古い言い方を使っています。

大阪新世界
(ルナパーク)
タカイヤロー、コ
レガ通天閣デ三百
尺オマンノヤ自働
昇降器デジツトシ
テ上レマツカラ一
ペン昇ツテ見メヘ
ンカ、ソラ一番高
イ所デスヨツテ遠
方迄見ヱルナンカ
天王寺公園ヤ新世
界ノ活動寫眞館ナ
ドハ足許ニ見エマ
ツセ

通天閣を取り上げたのは、絵はがき研究の第一人者が集めて、変遷をたどっているからです(注2)。この写真のロープウェイ、広告などを手がかりに、明治45(1912)年完成の初代通天閣ができて間もないころ、初期の方言絵はがきと推定できます。

方言絵はがきについては第222回に書きました。これまで登場した方言絵はがきも、そこからクリックでたどれます。

 * 

  1. 桜井隆(2010)「方言絵葉書について」応用言語学研究12
  2. 細馬宏通(2006)『絵はがきの時代』青土社

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。