地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第240回 大橋敦夫さん:方言ステッカーで交通安全の呼びかけ(長野県飯田市)

筆者:
2013年2月9日

飯田弁の方言ステッカーを貼った車が、飯田市内を走っているとのウワサを聞きつけたので、現地に確かめに行ってきました。

■すべては、このステッカーから始まった

(写真はクリックで拡大表示)

【写真】①赤ちゃんが乗っとるもんでゆっくり走るけぇど、かんな!
①赤ちゃん
【写真】②ラガーマンが乗ってます
②ラガーマン

開発者の麦島実さん(京美堂人形センター)によると、ラガーマンの後輩が遊び心いっぱいに作ったステッカーが発端。飯田弁でシャレをきかせたステッカー(①)と、ラガーマン(②)の2種を仲間うちで楽しんでいたところ、当人の予想を超えて、②よりも①が大反響。地元FM局を中心に、出所探査が始まり、おもちゃ部門の店舗の改装にあわせて、一般販売に至ったとの由。

■地域で愛される飯田弁を生かして

ふだんの自然な言葉遣いがウケて、赤ちゃんから大きくなった幼児・児童を乗せる親御さんや、さらには、お孫さんを乗せるおじいちゃん・おばあちゃん層からもリクエストが殺到。ステッカーの種類は増え、ついに英語を交えたものも、登場することに。

【写真3】子供が乗っとるもんでゆっくり走るけぇど、かんな!
【写真4】子供乗せとるもんでらんごくな運転はしんに!
【写真5】孫を乗せとるもんでゆっくり走るけぇど、かんな!
【写真6】BABY IN. かんな
【写真7】CHILD IN. かんな

■夢は、信州弁で訴える交通安全

ステッカーに添えられたメッセージのうち、キーワードとなる単語の意味は、

  「かんな」[=堪忍してね。ごめんなさい。]
   「らんごく」[=乱暴]
となります。

「らんごく」は、若い世代の人を中心に「乱雑なさま」の意味で使いますが、もともとは、「乱暴」の意味で使っていましたと語る麦島さん。飯田弁の伝統をこうした形でも伝えたいとのこと。

今後の展開として、飯田弁だけでなく、長野県内の方言にも目を向け、地域の方言で交通安全を呼びかけていきたいと、熱い抱負をお持ちです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。