大規模英文データ収集・管理術

第47回 これからの「トミイ方式」・1

筆者:
2013年4月1日

「トミイ方式」のあらましについては、前回の第46回までで、ほぼ終わりました。これからは、第47回から第49回までの3回にわたり、“これからの「トミイ方式」”として、「トミイ方式」をどのように実地に活用していくか、理想に走るのではなく、いかにして現実的に意味のある使い方をしていくか、について述べていきたいと思います。

「トミイ方式」はいろいろな時代を変遷し、現在の「コンピュータ・カード併用時代」に到達したわけですが、これは、第45回で述べたとおりです。そこで、ここからは、「カード方式のやさしさ」と「コンピュータ方式の強さ」の2つに分けて述べていきます。

(1) カード方式のやさしさ

「3大馬鹿」――ピラミッド、万里の長城、戦艦大和――に加えられ、「4大馬鹿」の一つに数えられかねない、このコンピュータ時代の「カード方式」は、一見時代遅れに見えますが、「馬鹿とはさみは使いよう」で、カードに英例文を書き込んだり、コピーしたりするこの方式は、欲しいと思う英例文が、「7つ道具」さえ携えていれば、いつでもどこでも誰にでも収集できる、われわれにとってとてもフレンドリーな英文データ収集方法です。分類方法がまだ確立されていない状態では、英例文を収集した後で、若干の戸惑いはありますが、1件1葉主義――1つの英例文を1枚のカードに書き留めておくこと――を守ってさえいれば、元の文献に赤で傍線を引いて安心してしまう「赤線方式」とは違い、姿形はどうであれ、欲しい英例文だけは間違いなく採取してあるという点で、確実に“指先が「トミイ方式」にかかった”ということになります。

収集した後で、集まったカードを (1)自分自身の方法で分類・収納するか、(2)すでに確立されている「トミイ式分類法」に従って分類・収納するか だけのことで、立派な「データベース」が出来上がります。

「7つ道具」とは、まだ「カード方式」全盛時代の話であり、今のコンピュータ時代では少々そぐわない部分もありますが、次の7つです。

(1) クリップ
2個。書いているうちに複数枚のカードとカーボン紙がずれないようにするためのもの
(2) カッター
英例文を切り取るためのもの
(3) ブランクのカード
切り取った英例文を貼り付けるためのもの
(4) 糊
切り取った英例文をカードに貼るためのもの
(5) 赤のボールペン
該当する語・句・節などをカードの上部に書き込んだり、該当する語・句・節などにアンダーラインを引いたりするためのもの
(6) 黒のボールペン
短い英例文の場合、カッターで切り取るのではなく、カードに直に書き込むためのもの
(7) カーボン紙
1つの英例文から数か所にある語・句・節などを採取する場合、カードの間にカーボン紙を挟んで複数枚の英例文を採取するためのもの。2枚のカーボン紙を使い、黒のボールペンで強く書くと、最高3枚までのカードを作ることができます

これら「7つ道具」を使うと、外出先ではもちろんのこと、自宅や事務所の机の上でも、極めて簡単に英例文をデータに採取することができます。一言で「カード方式」といっても、素朴で簡単なものから高度の複雑なものまでいろいろあります。ここでは、上記の「7つ道具」を使って誰にでもできる、それでいてそれなりの価値のある、最も一般的な事例を2つだけ紹介します。条件によっては、それ以外いろいろな場合が考えられますが、それらについては、いずれ何かの機会に紹介したいと思います。

事例I

背景:
自宅で英文の本を読んでいて、ある1つのセンテンスの中にどうしても欲しい英語の言葉とか表現が複数個、例えば、ここでは2個、あったとします。その2つのデータを収集したいが、本なのでカッターで切り取ることはできないという場合を考えてみます。(カッコ内の数字は、上記した「7つ道具」の番号を表します)

作業:

  • カード(3)を2枚取り出します。
  • あらかじめカードのサイズよりやや大きめに裁断しておいたカーボン紙(7)を2枚のカードの間に挟みます。
  • 2枚のカード(3)とカーボン紙(7)がずれないようにクリップ(1)で留めます。
  • 黒のボールペン(6)でやや力を入れてその英文をカード(3)に書き込みます。
  • これで、同じ英文が記載されているカードが2枚出来上がります。

  • 2枚のカードには、赤いボールペン(5)で、それぞれカードの上部には該当する語や文字や分類名称を、そしてカードの下部には出典、採取年月日などを書き込みます。さらに、英文中、該当する箇所に赤いボールペン(5)でアンダーラインを引きます。

これで、2枚のデータカードが完成します。

事例II

背景:
英文原稿の該当ページを2枚コピーして作業を進める場合を考えてみます。その場合は、クリップ(1)や黒のボールペン(6)やカーボン紙(7)などは不要になり、代わってカッター(2)と糊(4)の出番となります。

作業:

  • あらかじめコピーを取ってある2枚の英文原稿の中の欲しいセンテンスをカッター(2)で切り取ります。
  • カード(3)を2枚取り出し、切り取った同じ英文を糊(4)を使ってそれぞれ2枚のカードに貼ります。

これで、同じ英文が貼られたカードが2枚出来上がります。

このあとは前の事例と同じ作業になります。すなわち

  • 2枚のカードには、赤いボールペン(5)で、それぞれ、カードの上部には該当する語や文字や分類名称を、そしてデータカードの下部には出典、採取年月日などを書き込みます。さらに、英文中、該当する箇所に赤いボールペン(5)でアンダーラインを引きます。

これで、2枚のデータカードが完成します。

このようにして収集され、分類され、収納された英例文は、カードに収録されたままでも、立派な「コレクション」であり、「活用機能」、「学習機能」、「制作・発表機能」を発揮します。それを分類された形でコンピュータに入れれば、立派な「データベース」になります。

次回は、「コンピュータ方式の強さ」について述べます。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。