大規模英文データ収集・管理術

第48回 これからの「トミイ方式」・2

筆者:
2013年4月15日

前回は「カード方式の優しさ」について述べました。今回は「コンピュータ方式の強さ」です。

(2)コンピュータ方式の強さ

このコンピュータ時代に、この種のデータ管理にコンピュータを使わない手はありません。いくら、時と場合によっては「カード方式」のほうが手っ取り早くて便利であろうと、それはあくまでもやむを得ない場合の便法であって、やはり究極的にはコンピュータです。堅牢な石垣の石はやはりコンピュータで、カードは石と石の間を埋める小石にすぎません。

そこで、ここでは、今回と次回の2回にわたって、コンピュータを使った実践的英文データの収集・管理方法を実例に基づいて述べていくことにします。「カード方式」の場合には、コピーや転記などをしないといけませんので、特別のOA機器とか、高度のテクニックを使わない限り、どうしても、1つの文章から採取する英文データの数は遠慮がちになってしまいますが、「コンピュータ方式」の場合には、その容量は無限にあるといってもいいほど大きいので、欲しいデータは遠慮なく、いくらでも採取することができます。なんといっても、これが「コンピュータ方式」の絶対的な強さです。そのあたりを、筆者の主宰する「富井翻訳教室」で2007年に取り上げた、「トミイ式英文データ収集・分類・収納方式」と題するゼミを追体験してみることにします。

1年間といっても、8月は夏休み、9月は富井翻訳教室の翻訳フォーラムのためお休みですので、実質10か月ということになります。これを

  1. 第1期:4月と5月の2か月
  2. 第2期:6月から12月までの、8月と9月を除いた5か月
  3. 第3期:翌年の1月3月までの3か月

の3期に分け、第1期では、今までこの連載で述べてきた「英文データ収集のきっかけ」から始まり、変遷や、分類、機能などを学習しました。

第2期では、データはすでに大量に集まったものと仮定し、その集まったデータをいかに分類・収納するかについて実地に学習しました。すなわち、

収集 ⇒ 分類 ⇒ 収納

の工程から成り立つ「トミイ方式」のうち、「収集」工程を飛ばし、

収集 ⇒ 分類 ⇒ 収納

という工程の学習をしました。そして、各月ごとのテーマを下記のように決め、それらの単語を使っている英例文をそれぞれ約50個ずつ俎上に載せ、その中から欲しい英文データを集めて「分類」・「収納」の学習をしました。

  1. 6月:cause
  2. 7月:apply
  3. 10月:available
  4. 11月:allow
  5. 12月:as

第3期では、英語の文献を取り上げ、その中で、何を収集するかから始まり、さらにその集めた例文をどのように分類し、どこに収納するかについて学習しました。各月のテーマは、各受講生の専門分野に関係なく、平均的な受講生すべてにとって違和感なく取り入れやすいものとして

  1. 1月:エスカレーター
  2. 2月:特許文
  3. 3月:ヘリコプター

を選択しました。すなわち

収集 ⇒ 分類 ⇒ 収納

の工程を学習しました。

受講生には、事前にExcelで作成したかなり詳細な分類表をCDの形で渡し、毎回、その分類表の中に入れていく学習法を取りました。

事例Iの今回は、第2期の12月に取り上げた as について、その時の教材に基づいて「分類」と「収納」に挑戦してみようと思います。スペースが許す限り、as の様々な用法についても言及しながら説明を加えていきます。

文章の頭についている番号は、このテキストの中で使われている文章番号です。そのすぐ下に書いてあるのが、解説です。解説は、黒字で書いてある「解説文」と、①,②,③,……で表されている採取すべき英文データから成り立っています。①,②,③,……の中で、赤で書かれているものは重要であり、必ず採取すべき英文データを、そして青で書かれているものは必ずしも重要ではなく、興味があったり、時間的余力があったりするときに集めればよい英文データを、それぞれ示しています。①,②,③,……の中には、英文データの名前、分類番号、分類表の中の収納場所、採取する理由や目的、などが書かれています。

分類表なくして理解することはむずかしいと思いますが、このような分類表があって、分類番号に従ってそのセルの中に入れていくのだというイメージをもってお読みください。

最初は、テキストの中の3番目の英例文です。

3 Transmitted torque can be as high as 100 million lb-in. and . . .

3 は as _____ as として数量表現で使われている as です。 ① 「トルク」の表現として、大分類が「F 数量表現別」、中分類が「10 物理量」 、その中の「48 トルク」の中に入れます。② be as high as 100 million lb-in. の部分は、同じく大分類が「F 数量表現別」、中分類が「8 基本パターン」 の中に、分類番号 832 として入れます。③ また、大分類が「F 数量表現別」、中分類が「9 数量語句周りの表現」 の中の、分類番号 921,すなわち「1 最大(高)」 にも入れます。このように、as _____ as が「感情を表している表現」なのか、「最大・最小」を表している表現なのかは、前後関係を見ないとわからないことが多いです。④ can を大分類が「D 品詞別」、中分類が「5 助動詞」、小分類が「1 個々の助動詞」、その中にすでに11月に設定されている「5 must」の後ろに「6 can」を設定し、そこに入れます。もちろん、やがて、助動詞が出そろった時点では、並べ替えをしなければなりません。

この例は、「数量表現別」に偏ってしまっていますが、「品詞別」も含め、1つの文から4つの英文データを採取したことになります。

次は、12番目の英例文です。

12 As has been observed, the invention lends itself to use in detecting undesired ferrous metal to prevent damage to machines.

12 は As の後ろに完了形が来ている例です。 ① observe,invention,lend,detect,prevent などを 「A アルファベット順」 にとります。② in detecting は大分類「D 品詞別」の中の 133 に入れます。③ undesired は「反意語」として「G その他」の中の「5 反意語」の中に入れます。「単語」欄に desired を、「接頭辞」欄に un を、「反意語」欄に undesired を、それぞれ書き込み、例文を挿入します。④ damage は必ず 「A アルファベット順」にとりましょう。damage of ではなく damage to であることが学習できます。wear もそうです。wear of ではなく wear to です。⑤ 屋上屋の感じがしますが、damage to の to を大分類が「D 品詞別」の中の 11to1 に入れます。

これは、1つの文から5個、厳密には、①を5個と数えると9個、採取したことになります。

ちょっと長くなりますが、もう1つだけ挙げてみます。

16 As is true of any interaction forum, you should feel free to express yourself completely in a real-time conference.

16 は As is true of … で、「~真実であるように」という意味の表現です。これも「B 50音順」に取っておくとよいでしょう。① anyinteraction forum などは「A アルファベット順」 にとりましょう。 ② should は、大分類「D 品詞別」の中の「5 助動詞」、その中の「1 個々の助動詞」の中に、新たに追加してください。③ feel free to express … は「自由に~する」とか「遠慮なく~する」というものです。「B 50音順」の中に「自由に」と「遠慮なく」の2か所にとりましょう。④ また、 「A アルファベット順」 の中の feel と free も2か所にとりましょう。⑤ real-time も「A アルファベット順」 の中にとります。⑥ さらに、「リアルタイム」として「B 50音順」の中にもとりましょう。

これは表向き6個になっていますが、厳密に数えると、9個になります。

次回は、第3期の1月のテーマである「エスカレーター」を取り上げます。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。