地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第250回 大橋敦夫さん:「べーべーことば」を生かした方言グッズ(埼玉県)

筆者:
2013年4月20日

「方言的特徴が日本一薄い」と評されることもある埼玉県内で、方言グッズを探してみました。

土産物店・観光案内所などを、何か所かまわりましたが、方言をあしらったものは、たしかに見つけにくい感じで、あきらめかけたところ、目にとまったのが「だんべ漬」(行田市・飯田屋商店製)。例によって、いくつかおたずねをしてみました。

【写真1】
【写真1】だんべ漬け

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●「だんべ」と名付けたねらいは?

行田地方で愛されている方言「だんべ」を老舗の当店の漬物に銘うちました。皆様に喜んでいただけるよう、ぬくもりのあるたまり漬けに仕上がりました。

●お客さんの反応は?

だんべ漬けは、大根・きゅうり・玉ねぎの3種で、大根ときゅうりは、地元・埼玉県産を使用しております。奈良漬同様、少し甘めで、行田の小学校・中学校の給食にも出され、子どもから大人まで愛される漬物になりました。

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埼玉県を代表する民謡「秩父音頭」でも、「あちゃ・むし・だんべ」[=それでは・~だね・~でしょう]のはやし言葉がはいります。「秩父音頭」のご当地・秩父市内の学校給食には、かつて「だんべえうどん」というメニューが登場したこともあります。(主催埼玉県教育委員会ほか 平成13年度学校給食調理コンクール 課題献立部門入賞メニュー)。

【写真2】
【写真2】だんべえうどん(クリックで給食全体を表示)

作成者のコトバとして、

「だんべえ」は「~でしょう」という意味の秩父地方の代表的な方言ですね。中に秩父地方の特産品を使用しているので、この献立名をつけました。

と添えられています。(取材協力:学校給食歴史館/北本市)

現在は、猪肉が高価であるため、学校給食のメニューにはありませんが、秩父市内では、商品化されているそうです。

『埼玉県方言辞典』(井上史雄監修、手島 良編著、東京外国語大学日本語学ゼミナール協力/桜楓社 1989.7)によれば、「ダンベ・ダンべー」は、広く埼玉県内で使用されている(あるいは、使われていた)ことが確認できます。

かつて、NHKテレビが放映した「ふるさと日本のことば 埼玉県」(2000.7.30)でも、「そうだんべ」が「21世紀にのこしたい埼玉のことば」に入っていました。

「だんべ」を用いるのは、埼玉県民に、ふるさとを感じさせるキーワードによる命名だということがわかります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。