タイプライターに魅せられた女たち・第82回

エリザベス・マーガレット・ベイター・ロングリー(7)

筆者:
2013年5月23日
sholes4a.png

実はこの頃、シカゴにあるポーター電信学校では、授業にタイプライターを取り入れていました。ポーター電信学校は、あちこちの新聞に広告を掲載しており、あるいはロングリー夫人も、その広告を目にしたことがあったかもしれません。しかし、たとえ新聞広告を見ていたとしても、ロングリー夫人は、内容を気にも留めなかったことでしょう。ロングリー夫人を含め、当時の人たちは誰も、タイプライターという機械がどういうものなのかすら、全く知らなかったのですから。

オハイオ女性参政権協会の次回総会の準備を進めるロングリー夫人のもとに、シカゴのリバモア夫人から連絡が入りました。クリーブランドで開催予定のオハイオ女性参政権協会総会の直後に、とある別の大会を連続開催したい、という提案でした。リバモア夫人は、新たな団体AWSA (American Woman Suffrage Association)を立ち上げようとしていて、その設立大会をクリーブランドで開きたい、と提案してきたのです。リバモア夫人と、NWSA会長のスタントン夫人との仲が、どうもうまくいっていないことは、うすうすロングリー夫人も感じていました。ただ、だからと言って、NWSAとは別に、AWSAという団体を立ち上げるというのは、女性参政権運動を二分してしまい、全体のパワーを削ぐことにもなりかねません。

ロングリー夫人は、クリーブランドのカトラー夫人に打診してみました。もちろん、カトラー夫人のところにも、リバモア夫人から手紙が届いていて、対応に苦慮していたようでした。しかし、オハイオ女性参政権協会が連続開催を断ったところで、リバモア夫人がAWSAを設立するのは止められないだろうし、ならば、あえて連続開催の話に乗ってみた方がいいのではないか、というのが、カトラー夫人とロングリー夫人の結論でした。AWSAの設立がどういう形でおこなわれるにしろ、NWSAのスタントン夫人やアンソニー女史を招くだけ招いてみるべきで、それをいっそ連続開催の条件にすべきだと。

腹を決めたカトラー夫人とロングリー夫人は、リバモア夫人とともに、1869年10月20日付『The New York Times』や23日付『Woman’s Advocate』など各紙に、以下の開催案内を掲載しました。

アメリカ女性参政権協会AWSAの必要性を確信し、また、アメリカ全州を代表する団体としてAWSAを組織すべく、来たる1869年11月24~25日、オハイオ州クリーブランドで開催する代表者会議に、謹んで各州の代表者を招聘する。この会議に参加する代表者は、各州を代表する組織から選出されるものとし、各州に割り当てられた連邦議会の議員定数を上回らないこと。選出された代表者数が、議員定数を下回る場合は、地方組織その他から選出された代表者を加えてもよいが、当該の州の住民であること。なお、各州の代表者以外の参加者は、この会議での投票に数えない。

エリザベス・マーガレット・ベイター・ロングリー(8)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。とりあげる人物が女性の場合、タイトルは「タイプライターに魅せられた女たち」となります。