地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第255回 大橋敦夫さん:「がんもどき」ではなくて「飛竜頭」!

筆者:
2013年5月25日

同じものごとでありながら、日本の東西で表現や語形が違っている例があります。

東の「肉まん」に対して、西の「豚まん」など、以下に類例をあげると、

〈東〉 〈西〉
今川焼 回転焼
Yシャツ カッターシャツ
(パーマを)かける あてる

これらに、

がんもどき ひりゅうず(飛竜頭)

を加えることができます。

この「ひりゅうず」(もしくは「ひりょうず」「ひろうす」)ですが、食品事典や国語辞典では、「がんもどき」の関西での言い方と説明しています。

語源をたどれば、ポルトガル語のfilhosにいきあたります。室町末期以後にもたらされた南蛮菓子のひとつで、もち米を練って油で揚げ、砂糖みつに浸したものでしたが、江戸期には、「がんもどき」の別名になったとの由。

【写真1】

という歴史的背景のある食品ですので、関西だけで見られる例かと思いきや、東京の都心で「飛竜頭」を売っているお店があります。

さっそく命名の由来をたずねてみました。

*

●「がんもどき」ではなく、「飛竜頭」とした理由は?

そもそも当店では、豆腐類の小売店以前に懐石料理の店を始めております。店頭で商品を売る際、「がんもどき」ではなく「飛龍頭」としたのは、店内でお出しする料理名をそのまま使うことにしたからです。

料理の中で「飛龍頭の○○あん」「○○と飛龍頭の炊き合せ」などはあっても、「がんもどきの○○」というのは、当店だけではなく懐石料理を出すお店ではあまりないようです。(やはり懐石料理や茶懐石自体が関西を中心に広まっていったからでしょうか……?)

料理の流れを受けて「飛龍頭」としたので、豆腐類の小売りのみでしたら「がんもどき」だったかもしれません……。

●発案者は、関西のご出身ですか?

いいえ。

*

ということで、方言の活用ではあるものの、古語の再利用という面もあると感じられる例でした。

なお、都内には、関西から来た職人さんが作る「飛竜頭」を売るお店もあり、お店ごとにその由来をたずねてみるのも、おもしろいかもしれません。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。