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That’s The Way (I Like It)(1975/全米No.1,全英No.4)/KC&ザ・サンシャイン・バンド(1973-1984,1993-)

2013年 5月 29日 水曜日 筆者: 泉山 真奈美

歴史を彩った洋楽ナンバー~キーワードから読み解く歌詞物語~ 第84回

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●歌詞はこちら
http://www.metrolyrics.com/thats-the-way-i-like-it-lyrics-kc-and-the-sunshine-band.html

曲のエピソード

KC(K.C.と表記されることもある)こと、ヴォーカル兼キーボード担当のハリー・ウェイン・ケイシーと、ベース担当のリチャード・フィンチ(Richard Finch)が中心となって1973年に結成されたバンド。「That’s The Way (I Like It)」は、両者による共作。後に激しいメンバー・チェンジをくり返しながらも活動を続けていたが、1984年にいったん解散。1993年に活動を再開したのは、彼らが標榜していたディスコ・ミュージックの再ブームが到来したからだと言われている。

ディスコ・ミュージックが隆盛を極めていた1970年代、その体現者はアフリカン・アメリカンの人々とは限らなかった。また、人種混合のバンドも結構いたものである。筆者の手元にある「That’s The Way (I Like It)(邦題:ザッツ・ザ・ウェイ)」のシングル盤のピクチャー・スリーヴには、前髪を真ん中分けしたハンサムな白人のお兄さん=KCが写っている。上部に小さな文字でプリントされているキャッチ・コピ―は以下の通り。曰く“全米ヒット・チャートを制覇した爆発的ヒット「ゲット・ダウン・トゥナイト」に続く超強力ヒット!!――1975年当時から、既に超~という言い回しがあったのだなあ、と、感慨深かった。ただ、現在よりももっと強い意味で超~と表現していたような気がする。

そのキャッチ・コピ―にあるように、この「That’s The Way (I Like It)」は、彼らが初めて全米チャートでNo.1を獲得した「Get Down Tonight」(1975/R&BチャートでもNo.1)に続く全米No.1ヒットである。ついでに言うと、同曲に続く「(Shake, Shake, Shake) Shake Your Booty」(1976)も全米No.1に輝いた。いずれもダンス・ナンバーだが、立て続けに3曲もの全米No.1ヒットを放ったのは、快挙としか言いようがない。それほど、当時の彼らは破竹の勢いだった。

本連載の第63回で採り上げたジグソーの「Sky High」同様、これまたノリ一発の曲と言っていい。奇しくも、「That’s The Way (I Like It)」と同じ年に大ヒットしており、しかも、ヒットした時期がほぼ同じなのである。当時のダンス・ナンバーについて言えることは、極端な言い方をすれば、まずは印象に残るイントロと踊り易いリズムありき、だと思う。だからと言って、歌詞をおろそかにしていいわけではなく、この曲にしても、タイトルが歌い出しのフレーズになっている♪That’s the way… は、一度聴いたら耳から離れない。そのこともまた、40年近く経った今でも、街角のどこかで、あるいはCMソングなどで耳にする機会が多い要因のひとつだろう。彼らが放った全米No.1ヒット曲の中でも、世代を超えて、最も人々の印象に残る曲だと思う。

曲の要旨

そうそう、そんな風に身体をくねらせてくれ。もうたまんないね。それでいいんだ、もう最高だよ。君が俺の手を取って俺を(ベッドに)誘ってくれる時、俺のことを君を誠実な気持ちで愛する忠実な男だと、そう言ってくれ。君が俺にありったけの愛を捧げてくれるなら、とことん俺のことを愛してくれよ。俺が君の腕の中に抱かれて、ふたりきりになって、甘い言葉を囁かれると、俺はもううっとりしちゃうよ。そうそう、そんな風にセクシーに身体を揺さぶってくれよ。

1975年の主な出来事

アメリカ: ウォーターゲート事件の裁判で判決が下る。
日本: 沖縄県の本土復帰を記念する沖縄国際海洋博覧会が開幕。
世界: イギリス保守党がマーガレット・サッチャーを同党初の女性党首に選出。

1975年の主なヒット曲

Laughter In The Rain/ニール・セダカ
You’re No Good/リンダ・ロンシュタット
Lovin’ You/ミニー・リパートン
The Hustle/ヴァン・マッコイ
Love To Love You Baby/ドナ・サマー

That’s The Way (I Like It)のキーワード&フレーズ

(a) That’s the way I like it
(b) someone’s loving man
(c) whisper something in one’s ear

一聴すると、ダンス・フロアで踊る男女の姿を思い浮かべるだろうが、これは、如何様にも解釈できる内容である。筆者が曲の要旨でこの曲の舞台をダンス・フロアではなく男女の営みをする場と捉えたのは、主人公の男性が女性に向かって求愛をしているフレーズがあったから。そこがなければ、タイトルにある“the way”は、女性がダンス・フロアで踊る様子を指していると解釈できるが、聴き進めていくと、この男女は「ふたりきりになる」とあるので、その解釈にはちょっと無理があるのではないかと……。1970年代当時、ディスコ・ナンバーの歌詞は軽視される傾向にあったが、筆者の記憶にある限り、セクシーな内容のものが多かった気がする。恐らくこの曲は、聴く側の想像を掻き立てるような歌詞に仕立ててあるのだろう。実際、筆者も当時からこの曲の歌詞をそれほど深く考えないで聴いてきた。単純に、男性が女性に向かって「君が身体をくねらせて踊る姿はたまんないね」と歌ってるものだとばかり思っていたから。

タイトルにもなっている(a)は、直訳すると「その方法だよ、俺はそれが好きだ」となるが、これだと意味がサッパリである。そこで、以下のようにタイトルを書き換えてみた。♪は踊ってる場合で、♪♪は男性とセックスしている場合である。

♪I like the way you shake your body.
♪I like the way you dance.
♪♪I like the way you make love to me.
♪♪I like the way you move your body while we’re making love.

まだまだ他にもいろいろな言い換えができるが、こうしてみると、この曲のタイトルは、聴く側の想像力を掻き立てずにはおかない。ディスコ・ナンバーだからといって侮ることなかれ。

日本語になりにくいのが(b)の表現で、“loving”を辞書で調べてみると、形容詞で「情愛のある、忠実な」とある。私物の辞書に、筆者は赤ペンで「深い愛情に満ちた」という意訳を書き込んであるのだが、ここで筆者がとっさに思い出したのが、“knight(騎士)”という単語。曲の要旨ではややクドく意訳してみたが、これにピッタリくる日本語を見つけるのは難しい。いっそのこと、「君がずっと待ち望んでいた理想の男性」とでもしておこうか? 昔なら、「白馬に乗った王子様」といったところか(ちょっと赤面)。とにかくこの主人公の男性は、女性の身体の動きにゾッコンなのである。ノリ一発のディスコ・ナンバーにも、実はラヴ・ソングの要素がちゃんと含まれていたのだ。

ラヴ・ソングと言えば、頻繁に見聞きするのが(c)の表現。まだ単数形も複数形も解らなかった子供の頃、何故に「耳元で囁く」時の“ear”が単数形なのかピンと来なかった。が、考えてみたら、ひとりの人間が一度にふたつの耳に言葉を囁くことはできない。片方の耳に口元を近づけて、そっと囁くのだから。ゆえに“ear”は単数形なのである。例えば「肩越しに振り返る」についても同じで、“look over one’s shoulder”とは言うが、“look over one’s shoulders”と複数形では言わない。そしてここが肝心なところなのだが、“whisper”と“sweet”はセットで用いられることが非常に多い。ラヴ・ソングには、「甘い言葉を耳元で囁く」というフレーズが数え切れないほど登場する。まあ、時には、誰にも聴かれたくない秘密話をコソコソと囁くこともあるだろうけれど……。もちろん、その際も“ear”は単数形である。

もう20年ぐらい前になるだろうか、筆者と仲の良かった某レコード会社の男性が、この「That’s The Way (I Like It)」をカラオケの十八番としていた。実は彼は、普段はとても温厚で、どちらかと言えば大人しいタイプだったのだが、ある時、飲み会に誘われて、その流れて筆者が大の苦手とするカラオケに連れて行かれたことがある。同席した同じ会社の男性曰く「これから面白いものが見られますよ」と、含み笑いをした。何が始まるかと思いきや、普段は温厚で大人しいその男性が、ハジけたように大仰な振り付けで「That’s The Way (I Like It)」を歌い(踊り)始めたのである。筆者は彼の余りの豹変ぶりに、その間、口をポカンと開けたまま微動だにせずに彼の一世一代の(?)パフォーマンスに見入ってしまった。ノリ一発の曲は、人間の身体のどこかに潜む導火線に火を付けるものなんだなあ、と、いたく感じ入った次第である。この曲を聴くと、今でもあの時の光景をありありと思い出す。

【筆者プロフィール】

泉山真奈美(いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、2012年まで翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「泉山式 翻訳力×英文法講座」)の講師を務めた。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツを担当した。その他、ジャンルを問わずポップス、ロックの訳詞も手がける。

2013年 5月 29日