地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第262回 井上史雄さん:大阪方言10万円
1000 dollars for Osaka dialect

筆者:
2013年7月13日

大阪に行く機会があったので、なんばの商店街を見て回りました。大阪みやげの店があったので入ってみたら、方言グッズがたくさん並んでいました。大部分がこれまで見たことのないものです。のれん【写真】やら日めくりカレンダーやらお菓子やら、色々買いました。

大阪方言のれん
【写真】大阪方言のれん(クリックで拡大)

ふと、徹底的な大人買いをして、方言グッズを全部買ったらどうだろうと、考えました。店の人に尋ねたら、店長らしい人を呼んできました。「方言関係を全部買ったらどのくらいですか。1万円か3万円かというような大雑把な数字でいいですけど」と聞いたら、事務所に戻ったあと、教えてくれました。「300点くらいあって、単価500円として15万円くらいでしょう」とのこと。一桁違います。「とても買えませんねえ」ともらしたら、さすが大阪人、「買うてください」と言って、笑いをとりました。

その店は「いちびり庵」。インターネットで見たら充実したホームページがあります。「ミュージアム」を名乗っていますから、「バーチャル方言博物館」(第52回, 第196回)の先駆者です。

 いちびり庵 //www.msosaka.jp/shop/shop02010

大阪市内に支店も複数あり、東京のお台場にもあり、通信販売もやっています。社長の話が載っていますが、大阪みやげ全点で3000種くらいはあるそうです。そのうちの方言みやげは、確かに300点以上あるでしょう。在庫の種類では恐らく全国一。大阪の方言グッズは、これまで何度も登場しています(第17回, 第57回, 第58回, 第94回, 第191回, 第227回)。全体を合わせたら10万円をはるかに超えます。

他の地域だと、県内全部の方言グッズを集めても、数万円台でしょう。1万円ラインだと、数が多くなりそうです。計2万円を越えそうなのは、京都(第24回, 第29回, 第52回, 第129回, 第204回)・愛知(第99回, 第212回, 第242回)・沖縄(第17回, 第47回, 第177回, 第229回, 第259回)・青森(第3回, 第68回, 第237回, 第243回)・岩手(第1回, 第6回, 第11回, 第16回, 第46回, 第61回, 第81回, 第121回, 第131回, 第221回)でしょうか。ついでに海外で国全体の方言グッズを足して1万円を越えるのは、イギリス(第77回)とドイツ(第12回, 第74回)は確実。他にもあるでしょうが未確認です。

各地の方言に値段がついているのです。このシリーズのテーマである「地域語の経済」は、こんなふうにお金を手がかりにすると、見えてきます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。