歴史を彩った洋楽ナンバー ~キーワードから読み解く歌物語~

第94回 The Time of The Season(1968/全米No.3)/ ゾンビーズ(1962-1968)

2013年8月14日
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●歌詞はこちら
//www.stlyrics.com/lyrics/thebigchill/timeoftheseason.htm

曲のエピソード

1962年にイングランドのハートフォードシャーで結成されたゾンビーズ(それにしてもスゴいグループ名……)。彼らの名前は知らなくても、何年か前にここ日本で車のCMソングに起用された「The Time of The Season(邦題:ふたりのシーズン)」(レコーディングは1967年だが、リリースされたのは翌年)を耳にしたことがある、という人は多いのではないだろうか。あるいは、グループ・サウンズ(略してGS)全盛時代に青春時代を送った人々にとっては、GSグループ、ザ・カーナビーツのデビュー曲「好きさ好きさ好きさ」(1967)がゾンビーズの「I Love You」(1965)のカヴァーで、そのことによってゾンビーズというグループを知った人もいるかも知れない。ただ、筆者の手元にあるゾンビーズの4曲入りEP(サイズはシングル盤だが、LPと同じ33回転のレコード)のライナーノーツには、次のようにある――日本のGS、カーナビ―ツでヒットした「好きさ、好きさ、好きさ」にしても、このゾンビーズのオリジナル・ヒットであることを知っているのは、かなり少数の人達でしょう(原文ママ)――筆者はオン・タイムでこの曲を聴いたわけではないので、当時の日本でゾンビーズがどのぐらい人気があったかは判らない。が、洋楽もGSも大好きという還暦をちょいと過ぎた友人によれば、カーナビ―ツの「好きさ好きさ好きさ」を聴いてからゾンビーズの存在を知ったという。

何度か解散と再結成をくり返しつつ、今も現役で活動を行っているゾンビーズだが、デビュー曲「She’s Not There」(1964)がいきなり全米No.2を記録して鮮烈なデビューを飾るも、この「The Time of The Season」(ゴールド・ディスク認定)が収録されたアルバム『ODESSEY AND ORACLE』(イギリスでは1967年にリリース、アメリカでリリースされたのはそれから2年後のこと)のリリースからわずか2週間後に解散してしまう。つまり、1969年2月に「The Time of The Season」が大ヒットしていた頃、ゾンビーズなるグループはその時点でこの世に存在しなかったのだ。何とも皮肉な話である。

「The Time of The Season」が車のCMソングとしてTVから流れていた頃、数人の知人や友人から「あの曲はどのCDに入ってるの?」と訊ねられた。前述の通り、筆者は中古で入手した昔の4曲入りEPしか持っていなかったため、CDショップに行ってみたところ、ボーナス・トラック入りで紙ジャケ仕様の『ODESSEY AND ORACLE』の輸入盤を見つけたので、早速購入し、知人・友人にそのことを教えてあげた。ついでに言うと、手持ちの4曲入りEPのジャケ写は、『ODESSEY AND ORACLE』のサイケデリックなデザインをそっくりそのまま流用し、アルバム・タイトルを同じようなサイケ調のフォントで「TIME OF THE SEASON」に変えたものである。

曲の要旨

恋をしたくてウズウズする季節がやってきたね。君を灼熱の太陽の下に連れ出して、楽園に連れて行ってあげたいよ。何たって愛し合うには最高の季節だからさ。君の名前は何ていうの? 恋人はいるのかい? その恋人は僕みたいにお金持ちなのかな? 君に贅沢をさせてくれる男なのかい? 君のことをいろいろと知りたいな。せっかくの恋の季節だもの。

1968年の主な出来事

アメリカ: ロバート・ケネディ上院議員が暗殺される。
  公民権運動指導者のマーティン・ルーサー・キング Jr.牧師が暗殺される。
日本: 静岡県の旅館で殺人犯の立てこもり事件が発生。世に言う「金嬉老事件」。
世界: 南ヴェトナム民族解放戦線軍がサイゴンに進撃し、アメリカ大使館を占領。

1968年の主なヒット曲

Green Tambourine/レモン・パイパーズ
Love Is Blue/ポール・モーリア
Tighten Up/アーチー・ベル&ザ・ドゥレルズ
Stoned Soul Picnic/フィフス・ディメンション
Love Child/ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームス

The Time of The Seasonのキーワード&フレーズ

(a) run high
(b) promised land(s)
(c) daddy

昔も今も、夏の恋をテーマにした曲が多い。“spring”,“fall or autumn”,そして比較的ラヴ・ソングの舞台になり易い“winter”よりも、ダントツで“summer”をテーマにしたものが多いのである。前回採り上げた「Summertime」にしてもそうだが、タイトルに“summer”がつく洋楽ナンバーは枚挙にいとまがないほど。

ところが、この「Time of The Season」には、どこにも“summer”という単語が出てこない。それでもこの曲が指し示す“the season”がイコール夏、と想像がつくのは、♪… take you in the sun… というフレーズがあるから。そして辞書の“high”の項目に載っているイディオムの(a)は、「感情が昂る」という意味なのである。ここでは、「恋をしたいという気持ちが昂る」と歌われているので、筆者はこの曲が夏の恋を歌ったものだと判断した。昔から日本でも、“ひと夏の恋”、“夏のアバンチュール(←死語)”、“夏は恋する季節”などという、謳い文句にも似た言い回しがあるではないか。別に、恋愛をするのに季節は関係ないと思うのだが……。

(b)はもともと『旧約聖書』の「創世記」に登場するもので、頭文字が大文字の“Promised Land”または“the Land of Promise”ともいう。父なる神(イエス・キリストの父)がアブラハムと彼の子孫に与えると約束した地のことを指すのだが、他に「天国」という意味もあり。ところが、それぞれの単語の頭文字が小文字になると、「憧れの地、素晴らしい場所」などという意味になる。もちろん、語源は『旧約聖書』の「創世記」。この曲では定冠詞“the”なしの複数形で歌われているのため、ある一定の場所を指しているのではない。「君をステキな場所へ連れて行ってあげる」ぐらいの意味である。

筆者がこの曲を聴く度に頭に思い浮かべるのは、真夏の海辺で男性が女の子をナンパしている光景である。よって、(c)を直訳してその単語を含むフレーズを「君のパパは僕みたいに金持ちかい?」と訊ねるのは、その光景にそぐわない。それどころか、相手の女の子に「何よ、この人?!」と訝しく思われること必至。実は“daddy”には、スラングで「恋人、(女性から見た)愛する男」という意味もある。実際、筆者は次のようなシーンをある映画(タイトルは失念)で目にしたことがある。シャワーを浴びている女性がベッドにやってくるのを今か今かと待ち構えている男のセリフ。彼が口にしたのは――

Come here, baby. Your daddy’s waiting for you.

“your daddy”とは、シャワーを浴びている女性の恋人、即ちそのセリフを口にした男性本人を指す。「The Time of The Season」に話を戻すと、(c)が登場する前後のフレーズで、この曲の主人公は、自分がナンパした女の子に贅沢をさせてあげられるぐらいお金を持っていると言っているわけだから、自分と彼女の父親を同等に語っている、と解釈するのは誤り。また、(c)は時にゲイの人々の間で“(男性の)恋人”という意味でも用いられることがあることを、念のために記しておく。

夏になると無性に聴きたくなる曲は多々あるが、この「The Time of The Season」もそのうちのひとつ。そして秋が訪れると、パッタリ聴かなくなってしまう。“summer”という単語が出てこないのに、これほど夏の光景(しかも太陽がギラついている浜辺)を思い浮かばせてくれる曲もまたとないだろう。

筆者プロフィール

泉山 真奈美 ( いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「リリック英文法」)の講師を務める。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。近作はマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツ。

編集部から

ポピュラー・ミュージック史に残る名曲や、特に日本で人気の高い洋楽ナンバーを毎回1曲ずつ採り上げ、時代背景を探る意味でその曲がヒットした年の主な出来事、その曲以外のヒット曲もあわせて紹介します。アーティスト名は原則的に音楽業界で流通している表記を採りました。煩雑さを避けるためもあって、「ザ・~」も割愛しました。アーティスト名の直後にあるカッコ内には、生没年や活動期間などを示しました。全米もしくは全英チャートでの最高順位、その曲がヒットした年(レコーディングされた年と異なることがあります)も添えました。

曲の誕生には様々なエピソードが潜んでいるものです。それを細かく拾い上げてみました。また、歌詞の要旨もその都度まとめましたので、ご参考になさって下さい。