地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第270回 大橋敦夫さん:横浜の方言グッズは「いいじゃん」

筆者:
2013年9月7日

関西の皆さんに、東京のしゃべり方をマネしていただきますと、語尾に「じゃん」を多用する場合が多いですね。確かに東京の方々の口からは、「そうじゃん」のような表現が聞かれます。が、この「じゃん」をよく使っているのは、神奈川県下で、これぞ神奈川弁と言うべきものです。

1950年代には、「横浜じゃん」として全県域に展開、その後、東京に伝播し、全国区になったとも考えられています。

というわけで、横浜市内に目を向けると、ありました! その名も「いいじゃんガスール石鹸」!!(株式会社イーキューブ)。

「いいじゃんガスール石鹸」
【写真1】「いいじゃんガスール石鹸」
(クリックで拡大表示)

会社の方にお話を伺ってみると──

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命名の由来は?

弊社代表が横浜生まれで、地元に根ざした商品を、と考えました。

●お客様の反応はいかがですか?

面白い名前、変な名前と、興味を持ってくださるお客様が多くいらっしゃいます。
(ガスールとは、モロッコの限られた場所でしか採取できない粘土。100%天然石鹸とも言われるほど、十分な洗浄力と保湿力をバランスよく兼ね備えています。)

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また、同社のお買い物ポイントの愛称は「いいじゃんポイント」。地元愛が徹底しています。

このほか、過去の文献(佐藤亮一監修『ポプラディア情報館 方言』ポプラ社 2007.3)にも、

  「じゃん米」(横浜市内で売られている米の名前)
  「いいじゃん かわさき」(JR川崎駅前の商店街の秋のイベント名)

のように、「じゃん」の活用例が紹介されています。

また、この連載の第27回第187回にも関連記事があります。

「じゃん」の語源は、「では+ない+か」で、「では」が「じゃ」となり、「ない」が「ん」となり、「か」が落とされて成立したと考えられています。

なお、「じゃん」の発祥は、横浜ではなく、伝播の中継地と考えられています。発祥地については、山梨説(明治時代の方言集の記載が根拠)と静岡説とがあり、この2説に対し、愛知県三河地方(「三河のじゃん、だら、りん」として、これらの表現が使われることで有名)が異をとなえており、定説がありません。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。