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「百学連環」を読む:連環というイメージ

2013年 9月 13日 金曜日 筆者: 山本 貴光

第125回 連環というイメージ

 学術の体系と方法の話が終わって、いよいよこの「総論」の終わりにさしかかりました。『西周全集』でのテキストでは前回読んだ部分から改行なしに、話題が転じます。

右總論中學術に相關渉する所を以て種々に辯解せり。今此編を額して連環と呼なせしは、學術を種々の環に比し、是を二筋の糸を以て連ねたる如く、學と術と二ツに區別し、始終連ね了解せんことを要す。

(「百學連環」第50段落第11文~第12文)

 訳してみましょう。

これまでのところ「総論」では、学術に関わることをさまざまに説明してきた。いま、この一編に「連環」という言葉を冠しているのは、学術をさまざまな「環」に譬え、この環を二本の糸に連ねたようなものとして、学と術の二つに区別したうえで、これらを連ねて理解しようというわけであった。

 「百学連環」という講義名は、この「総論」の最初に説明されていたように、そもそも Encyclopedia を訳したものでした(第8回参照)。この訳語そのものを改めて眺めれば、「百」の「学」が「連環」となっている、という形をしています。ここで「百」とは、具体的な数ではなくたくさんの、無数のというほどの意味でした。

 では、「連環」という言葉にはどんな含意があったか。そのことを、西先生は説明しています。一つ一つの学と術を、それぞれが一つの環であると見立てる。そして、それらの環が、学と術という二本の糸で連ねられている、そういうイメージです。

 このくだりには、図が添えられています。ご覧のように、水平方向に二本の線があり、そこに複数の環が連なっています。気になるのは垂直方向に引かれた線ですが、これについては先を読みながら考えましょう。

125_1_s.png

 連環があくまで譬えであることを念頭におきつつ、しかし、ここに示された図から思うことがあります。

 例えば、図の向かって上の線が「学」だとしましょう。学の糸にさまざまな個々の環(学)が並んでいます。もしこの図のように環が並ぶとしたら、それぞれの環は、糸の上でどこに位置するかという違いも出てきます。言い換えると、環の並び方も検討することができそうです。

 また、このように糸の上に一列になって環が並ぶとすれば、環同士の関係は比較的すっきりしています。例えば、ある環に注目すると、その環と直接関係しあうのは、その両隣の環というふうにも読めます。しかし、実際のところ、学や術の環は、もっと複雑に絡み合っていたりはしないでしょうか。例えば、五つの環が相互に結び合うような関わりのように。そんな疑問も湧いてきます。

 とはいえ、物事を整理する上では、こうした比較的簡単な図のほうがイメージしやすいはずです。それに先にも述べたように、これはまず学や術がばらばらにあるものではなく、相互に連なり合っていることを表すことを目的とする図でありましょう。上記したような疑問を問う前に、まずはこの図でもって西先生が表そうとしたことを十全に汲み取ることが先決です。

 話は次のように続きます。

しかし環に白色なるあり黒色なるありて、學術自から一樣ならさるものなるか故、是は區別せさるへからす。

(「百學連環」第50段落第13文)

 訳します。

しかし、環には白いものもあれば黒いものもある。一口に学術といっても一様ではない。だから区別する必要があるのだ。

 つまり、学術は連環になっているというけれど、そもそもどうして環が複数あるのかということを説明しています。学も術も、まとめていえば学であり術だが、その内実を見れば、いろいろな違うものがある。だから、それらを区別して、一つ一つの環(学や術)として分けて考える必要があるということです。

 ここで思い出しておきたいのは、第22回「学域を弁える」で読んだくだりです。現代語訳で該当箇所を見直しておきましょう。

一般に学問には学域がある。例えば、地理学には地理学の学域が、政治学には政治学の学域があって、そうした領域を越えてあれこれが混雑することはない。地理学には地理学の領域が、政治学には政治学の領域があり、どこからどこまでがその学の領域であるかをはっきり見て取り、その境界がどこにあるかを正しく区別しなければならない。

 この「総論」の冒頭近くで述べられていたこのことと、環を区別するということが呼応しているわけです。

 さて、図に描かれていた縦線の謎はまだ解けていませんでした。これについては、おそらくこの後に続く箇所を読むことで、その意味が分かるはずだと睨んでおります。

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筆者プロフィール

山本貴光(やまもと・たかみつ)

『コンピュータのひみつ』(朝日出版社) ジマーマン+サレン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ)文筆家・ゲーム作家。
1994年から2004年までコーエーにてゲーム制作(企画/プログラム)に従事の後、フリーランス。現在、東京ネットウエイブ(ゲームデザイン)、一橋大学(映像文化論)で非常勤講師を務める。代表作に、ゲーム:『That’s QT』、『戦国無双』など。書籍:『心脳問題――「脳の世紀」を生き抜く』(吉川浩満と共著、朝日出版社)、『問題がモンダイなのだ』(吉川浩満と共著、ちくまプリマー新書)、『デバッグではじめるCプログラミング』(翔泳社)、『コンピュータのひみつ』(朝日出版社)など。翻訳書:ジョン・サール『MiND――心の哲学』(吉川浩満と共訳、朝日出版社)ジマーマン+サレン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ)など。目下は、雑誌『考える人』(新潮社)で、「文体百般――ことばのスタイルこそ思考のスタイルである」、朝日出版社第二編集部ブログで「ブックガイド――書物の海のアルゴノート」を連載中。「新たなる百学連環」を構想中。
URL:作品メモランダム(http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/
twitter ID: yakumoizuru

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【編集部から】
細分化していく科学、遠くなっていく専門家と市民。
深く深く穴を掘っていくうちに、何の穴を掘っていたのだかわからなくなるような……。
しかし、コトは互いに関わり、また、関わることをやめることはできません。
専門特化していくことで見えてくることと、少し引いて全体を俯瞰することで見えてくること。
時は明治。一人の目による、ものの見方に学ぶことはあるのではないか。
編集部のリクエストがかない、連載がスタートしました。毎週金曜日に掲載いたします。

2013年 9月 13日