地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第272回 井上史雄さん:方言絵はがき10万円
1000 dollars for dialect picture postcards

筆者:
2013年9月21日

「方言絵はがきがたくさん載っているインターネットのサイトがある」と教えてくれる人がいました。さっそく訪れてみたら、すばらしい! 「桜井コレクション」でかなり集まったと思っていましたが(第222227232237242回)、見たことのない絵はがきがいっぱい載っています。画像の精度が高いので、細かい字も読み取れます。さっそく様々なキーワードで検索して、ダウンロードして、パソコンに保存しました。

1枚1000円で100枚以上ありますから、全部買うとしたら、10万円以上になります。それだけに精細な画像の無料提供は、ありがたいことです。

珍しいものが見つかりました。【画像1】は広島県福山の方言絵はがきです。戦前に中国地方で出た方言絵はがきがあることは、これまで知りませんでした。

青字が方言です。昔の方言がかなり忠実に記されております。山陽地方でアイ、オイなどがエーになることは、知られていますが、助詞の「は」や「へ」「を」がついたときも、似た現象が起こります。例がたくさん書いてあります。トキャァー(ときは)、コケェー(ここへ)、トケェー(ところへ)、マチュー(街を)などです。現在の若い人では衰えつつありますが、戦前には盛んだったのです。

【画像1】広島県福山の方言絵はがき
【画像1】広島県福山の方言絵はがき

画像は在庫のものを示すのだそうで、買ってしまうと消えるそうです。買って死蔵(私蔵)するよりも、買わないで興味ある人に見てもらうほうがいいかもしれません。念のために「ポケットブックス」に問い合わせました。ホームページを紹介してもいいそうなので、以下に示します。興味のある方は、訪れてみてください。
   www.pocketbooks-japan.com/

なお「桜井コレクション」は、以下のサイトで見られます。「明海大学 外国語学部 日本語学科」の「方言関係資料(井上史雄)」の「方言絵はがき.zip」にあります。
   //www.urayasu.meikai.ac.jp/japanese/

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。