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漢字の現在:変わる中国語、変わる漢字

2013年 9月 30日 月曜日 筆者: 笹原 宏之

漢字の現在 第282回 変わる中国語、変わる漢字

 共産主義の象徴となった呼びかけや敬称の「同志」は、近年、中国では同性愛者という別の意味が生まれて広まってきた。単なる志を同じくする者という意味では使いにくくなった。「小姐(シャオジエ)」も、いかがわしい仕事に就いている人を指すようになったそうだ。

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 水道水は飲めない。「硬水」と印刷されたミネラルウォーターを手にする。日本では軟水が多く、これはお腹を壊す方ではないか、と疑う。仕方ないので、飲むとする。

 数百名が参集した研究会の記念撮影では、カメラの台が大きい。人いきれ、熱気が伝わってくる。140から150人くらいが乗ったか。後で各自でダウンロードしてと、URLが知らされた。中国では、IT化が著しい。

 最終日、中国の先生がお菓子屋さんでお土産を買って下さる。月餅はおいしそうだが、嵩張るために持ち帰れない。

 中国の飛行場では、「Eチケットお客様控え」を見せるために渡すと、係の男性は返してくれなかった。そこには気付いたことのメモなど書き込まなかったはずだが、少しだけ後ろ髪を引かれる。空港のターミナルを表す「1」と「I」は、注意をするように下の方に小さくは書かれていて、少なくともそこに書き込みはしていた。この数字は確かに互いに見分けが付きにくく、間違えてしまう人もいるのだろうと心配になる。

 空港内の韓国料理店には、「舎廊居」と看板が出ている。「sarangchae」という発音がハングルでも記されている。ここが中国だから、漢字表記を示したものかもしれない。

 「閉」の簡体字が隷書体で記されている。むろん隷書が実用されていた漢代には、そのような字形はなかった。草書を介したいわば「なんちゃって隷書」だ。日本だけの現象ではない。書体で雰囲気を醸しだすことに一役買っている手法である。

 入管も、笑顔と会話が絶えない、緊張感が薄いときに当たったようだ。

 帰りの中国機は、搭乗後、膝掛けの毛布が来るのを待ってしまっていたら、早々となくなってしまうなど、「耐心」のようなものが求められた。「空中小姐」すなわちCA(スチュワーデス この小姐は別格だそうだ)たちがずっとお話をしているなど、日本とは全く違った立ち居振る舞いをしているのが印象的だった。羽田行き、ANAと共同運航便だが、日本語ができる客室乗務員は、少なくともエコノミークラスには搭乗していなかったようだ。出発が遅れに遅れ、離陸前に、機内食が配られる状況となり、仕方なく食べていると、離陸に向けて俄に動き出し、慌てて回収に入る。

 機内の地図では、「日本海」が太平洋上に記されていた。ソウルは「首尓」、ホーチミン市は「胡志明市」、漢字圏を越えてバンコクも「曼谷」と、漢字で、漢字を当てて表記することによって、世界を認知するのが中国の人々なのである。

 トイレには「尿布」、何だろう、おしめ、おむつのことだった。

 機内で見た中国の時代劇では、旗に記された文字がゴシック体や明朝体になっていた。いずれにせよ作り物ではあるが、時代が合わず、少し興が冷める。

 2時間を超える大幅な遅れのために、羽田といえども電車もモノレールも終わっており、タクシーでの帰りを余儀なくされた。深夜に着くと、数時間前まで元気だったという金魚が水が急に悪くなったのか、3匹とも変わり果てた姿になっていた。2時間早くに着いていたら、と思うと悲しさが増した。

 続けて、韓国の済州島での口頭発表が待っている。

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【筆者プロフィール】

『漢字の現在』 『国字の位相と展開』笹原宏之(ささはら・ひろゆき)
 早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。博士(文学)。日本のことばと文字について、様々な方面から調査・考察を行う。早稲田大学 第一文学部(中国文学専修)を卒業、同大学院文学研究科を修了し、文化女子大学 専任講師、国立国語研究所 主任研究官などを務めた。経済産業省の「JIS漢字」、法務省の「人名用漢字」、文部科学省の「常用漢字」などの制定・改正に携わる。2007年度 金田一京助博士記念賞を受賞。著書に、『日本の漢字』(岩波新書)、『国字の位相と展開』、この連載がもととなった『漢字の現在』(以上2点 三省堂)、『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社新書)、編著に『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(三省堂)などがある。最新刊は、『方言漢字』(角川学芸出版)

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【編集部から】
漢字、特に国字についての体系的な研究をおこなっている笹原宏之先生から、身のまわりの「漢字」をめぐるあんなことやこんなことを「漢字の現在」と題してご紹介いただいております。前回は「香港の方言漢字」でした。

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2013年 9月 30日