三省堂辞書の歩み

第21回 大正独和辞典

筆者:
2013年10月9日

大正独和辞典

大正元年(1912)9月29日刊行
保志虎吉編/本文1493頁/三六判変形(縦166mm)

【大正独和辞典】初版(大正元年)

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【本文1ページめ】

本書は三省堂における2冊目の独和辞典である。1冊目の『独和新辞林』(明治29年・1896)から16年がたち、本のサイズとともに活字も大きくなった。

前著と同様、ドイツ語にはドイツ文字(亀の甲文字)が使われ、複合語は主となる語の項目に集めてある。語釈には雅俗両様の言葉を用い、おもに俗語で言い表すことに努めたというが、まだ漢字カタカナ交じりの文語文だった。

『模範英和辞典』(明治44年・1911)と同じく、カタカナやひらがなには横幅を縮めた扁平活字を使用している。難読の漢字には読みがなを括弧に入れて掲載した。それがなぜか縦書きなのも『模範英和辞典』と同じ。目立った違いは、例文と和訳文を小さめの活字で組んであることだ。

専門用語については40あまりの分野別に略語を記し、さらに方言・俚言・俗言・隠語なども示した。また、外国から入った言葉は見出し項目の頭に「†」を付け、発音がドイツ語と異なる場合には発音を表示してある。

編者の保志虎吉は、第一高等学校のドイツ語教授だった。著書は、ほかに『独英和三対小字彙』(共同館、明治26年)、『袖珍通俗神話辞彙』(南江堂、明治32年)、『日独新会話』(鍾美堂、明治38年)がある。

●最終項目

zyfelmaus, f.【動】ヤマネ(日光方言)又フクネヅミ.

●「猫」の項目

Katze

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●「犬」の項目

Hund

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筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。