地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第281回 田中宣廣さん: 東京の方言の拡張活用

筆者:
2013年11月23日

方言とは,東京以外の地方の日本語,というイメージを持っている人も多いと思います。この連載でも,東京以外の地方の例が取り上げられてきました。しかし,言語に地域性が認められれば,それが方言です。

【写真】
威勢よく「らっしゃい!」
(クリックで全体を表示)

第261回「方言の拡張活用はじめて物語」で東京の方言に触れました。方言の拡張活用の始まりは,方言パフォーマンスであり,それは,江戸時代からの落語や世話物歌舞伎という趣旨です。これらは,方言だからこそ成立する芸能です。落語なら「時蕎麦」や「たらちね(言語自体が重要な要素)」,歌舞伎なら「魚屋宗五郎」や「髪結新三」は,江戸弁を聞かせることも演出要素の一つです。東京の方言は,学術的意味の地域言語体系としての東京方言であるとともに,拡張活用がされる方言の地域性を認めることができます。今回は,東京の方言拡張活用から2例紹介します。

1例目は,方言メッセージです。宮城県仙台市の物産展で「らっしゃい!東京」の幟が掲げられました【写真】。「らっしゃい」という威勢のよい呼び声は,私が小さいころの八百屋さんや魚屋さん(最近のスーパーの青果コーナー,鮮魚コーナーでなく)を思い浮かべます。

2例目は,方言ネーミングです。美空ひばりさん主演の映画に『べらんめえシリーズ』(東映)があります。「べらんめえ」とは,東京の昔ながらの江戸弁の口調を表すことばです。このシリーズは,1959(昭和34)年から1963(昭和38)年まで,全部で10作が公開されました。第8作を除く,第3作から第10作の7作は,「べらんめえ芸者シリーズ」となっています。第4作から第9作では,他作品でも多数共演のある相手役,今年文化勲章を受章した高倉健さんとの名コンビがいいリズムを出しています。

美空ひばり『べらんめえ』シリーズ
  ①東京べらんめえ娘(1959年3月)
  ②べらんめえ探偵娘(1959年9月)
  ③べらんめえ芸者(1959年12月)
  ④続べらんめえ芸者(1960年3月)
  ⑤続々べらんめえ芸者(1960年8月)
  ⑥べらんめえ芸者罷り通る(1961年1月)
  ⑦ひばり民謡の旅 べらんめえ芸者佐渡へ行く(1961年8月)
  ⑧べらんめえ中乗りさん(1961年10月)
  ⑨べらんめえ芸者と大阪娘(1962年2月)
  ⑩べらんめえ芸者と丁稚社長(1963年1月)

東京の方言の拡張活用例は,ほかにもあります。東京にも注目してください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。