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Merry Christmas, Baby(1968/シングル・カットなし)/オーティス・レディング(1941-1967)

2013年 12月 25日 水曜日 筆者: 泉山 真奈美

歴史を彩った洋楽ナンバー〜キーワードから読み解く歌詞物語〜 第111回

Otis Redding(Merry Christmas, Baby)収録アルバム(1968)

●歌詞はこちら
http://www.metrolyrics.com/merry-christmas-baby-lyrics-otis-redding.html

曲のエピソード

オーティス・レディングによるクリスマス・ソングと言えば、真っ先に「White Christmas」を挙げる人が多いかも知れない。同曲はコンピレーション・アルバム『SOUL CHRISTMAS』(1968)に収録されており、筆者の友人・知人にも、R&B/ソウル・ミュージック愛好家はもとより、ジャンルを超えて洋楽を愛聴している人々にも今でもLPを大切に所有している人が少なくない。そして異口同音にオーティスの「White Christmas」は凄まじい、と言う。中には、「あれは“ホワイト”じゃなく“ブラック・クリスマス”だな(=つまり非常にソウルフルだということ)」と絶賛するオーティス信奉者も……。筆者も10代の頃にオーティスの「White Christmas」を初めて聴いて驚愕したひとりだが、それ以上に心惹かれたのが、まさにクリスマスの本日に採り上げた「Merry Christmas, Baby」(やはり先述のアルバムに収録)である。

多くのクリスマス・ソングが讃美歌もしくは英語で“Traditional”と呼ばれる古くから歌い継がれてきた伝承的なものであるが、オリジナル・ソングであっても、過去から現在に至るまで多くのアーティストによって歌われ、半ばスタンダード・ナンバー化しているものもある。この「Merry Christmas, Baby」もそうしたうちの1曲で、初レコーディングは1947年、アーティストはジョニー・ムーア’ズ・スリー・ブレイザーズ(Johnny Moore’s Three Blazers)であった。その後、複数のバンドによるインストゥルメンタル・ナンバーの他、チャック・ベリー、アイク&ティナ・ターナー、エルヴィス・プレスリー、ナタリー・コールなど、数多くのアーティストたちによってカヴァーされ続けている。つい一年前にも、ロッド・スチュアートがカヴァーしたばかりだ。

この曲の最大の特徴は、登場人物が恋人同士もしくは夫婦、という点。数日前、新聞で“クリスマスを誰と過ごすか”というアンケート調査記事を読んだが、現在は“家族”がダントツの1位だそうである。今でもクリスマス=愛し合う男女が特別な時間を過ごす日、という印象が色濃く残っているが、時代の趨勢と共にその風潮も変わりつつあるのかも知れない。しかしながら、その“家族”には“夫婦”も含まれている場合もあるわけで、非クリスチャンであっても、クリスマスを特別な日として楽しみたいという全ての仲睦まじいカップルに今年はぜひこの曲を傾聴して頂きたいと思う。たとえ歌詞に描かれている物語が実現できそうになくても。

曲の要旨

クリスマスおめでとう、ベイビー。今日は俺にうんと優しくしてくれよ。クリスマス・プレゼントにお前からダイヤの指輪を贈られて、俺は夢見心地の気分だよ。今の俺は天にも昇る気持ちで、今にも歌い出しそうさ。ヤドリギの下に立ってるお前に今すぐキスしようかな。サンタクロースは午前3時半過ぎに暖炉の煙突を伝って我が家へやって来て、俺の愛する彼女と俺のためにプレゼントを置いていってくれたんだ。クリスマスおめでとう、ベイビー。俺のために俺が欲しがってたものをクリスマス・プレゼントとして贈ってくれたお前を、この先もずっと愛するよ。

1968年の主な出来事

アメリカ: 大統領選候補者のロバート・ケネディ上院議員が暗殺される。
公民権運動指導者のマーティン・ルーサー・キング Jr.牧師が暗殺される。
日本: 静岡県の旅館で殺人犯の立てこもり事件が発生。世に言う「金嬉老事件」。
世界: 南ヴェトナム民族解放戦線軍がサイゴンに進撃し、アメリカ大使館を占領。

1968年の主なヒット曲

Sky Pilot (Part One)/アニマルズ
Say It Loud — I’m Black And I’m Proud (Part 1)/ジェームス・ブラウン
Suzie Q (Part One)/クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル
Ain’t Nothing Like The Real Thing/マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル
Jumpin’ Jack Flash/ローリング・ズトーンズ

Merry Christmas, Babyのキーワード&フレーズ

(a) sure do treat me nice
(b) be in paradise
(c) mistletoe

高校時代に漫画研究会(学校側から漫研の活動を禁じられていたため、表向きは文芸部/苦笑)に籍を置いていた筆者は、今でも時々コミックスの類を購読する。この季節になると、大好きな漫画家さんのネーム(漫画のセリフ)にあった次のような文言を毎年のように思い出してしまう。曰く「クリスマスはパーティを開いてプレゼントを交換するための日だとばかり思っていたのに、会ったこともない男(=イエス・キリスト)の誕生日を祝う日だったとはなあ…」。その漫画家さんのエッセイによると、彼女はクリスマス・カードのコレクターでもあり、クリスマス・シーズンが大好きだという。つまり、彼女はクリスマスの真意を理解しつつ、自らペンを執った漫画の中で登場人物にそうしたセリフを言わせ、“クリスマスは本当はこれこれこういう日なんですよ”ということを遠回しに読者に伝えているのだと筆者は理解した。忘れられないネームのひとつである。

“誰と誰にこれこれこういうプレゼントを贈ろう、というリストを作っておいて……云々”というフレーズが登場するクリスマス・ソングも多数あるが、この曲ではそのプレゼントがいきなり“ダイヤの指輪”であることに先ず驚かされる。例えばこれが女性シンガーが歌ったものなら“おっ、相手の男性は奮発したな”と思うところだが、男性シンガーが歌う場合は女性側からダイヤの指輪をプレゼントしているのである。筆者がこの曲を初めて聴いたのはオーティスによるこのヴァージョンによってだが、“一体どんなデザインのダイヤの指輪を相手の女性は贈ったのだろうか?”と、漠然と考えたことが今でも忘れられない。1999年、R&B兄弟デュオのK-Ci & JoJoによるカヴァーをたまたま訳す機会に恵まれたのだが、その際にも10代の時に初めて耳にしたオーティスによるこのヴァージョンを思い出さずにはいられなかった。イメージ的には、節くれだった男性の指にも似合いそうなゴツいダイヤの指輪なのだが……。みなさんはここのフレーズからどんなデザインのダイヤの指輪を想像しますか?

(a)の“do”はそれに続く動詞を強調しているもので、筆者が生まれて初めて聴いたビートルズの曲「Love Me Do」(1964/全米No.1)の“do”に同じ。しかも(a)では“sure”(副詞“surely”が正しいが、形容詞“sure”を口語的に副詞として用いたもの)をその前に付けて更に“treat”を強調している。“treat someone +副詞”は洋楽ナンバーに頻出する言い回しで、以下のようなフレーズをしょっちゅう見聞きする。

♪Treat me good.
♪Treat me right.

(a)も上記とほぼ同じ意味で、なかなか日本語に訳しにくい言い回しではあるものの、意訳するなら“優しくしてくれ”、“うんと気分良くさせてちょうだい”といった表現が最もピッタリくるだろうか。

(a)の“nice”と押韻している“paradise”を用いた(b)もまた、洋楽ナンバーのラヴ・ソングでたまに耳にする定番の言い回しのひとつ。特徴は、“paradise”の頭に冠詞が付いていないこと。“be in heaven”も同じような意味で、やはりこの場合も“heaven”の前に冠詞が付かない。仮に定冠詞の“the”がそれらの頭に付いていたとすると、「楽園」も「天国」も“この世にあるもの”もしくは“人々が目にしたことのあるもの”として認知されてしまい、空想ではなくなってしまうから。日本語でにも“この世の楽園”といった言い回しがあるが、それは実在する場所ではなく、飽く迄も比喩としての表現である。もちろん(b)も比喩として歌われており、「有頂天」、「天にも昇る気持ち」といった意味。その胸の高鳴りを“in paradise”として表現しているわけである。

過去に訳してきたクリスマス・ソングに数え切れないほど登場した(c)は、大抵の辞書なら、そのいわれについて記述してある。曰く“西洋ではクリスマスの日にヤドリギの下に立っている乙女にはキスをしてもいい、という風習がある”。よって、(c)の前のフレーズに“お前にキスしようかな”とあるわけ。こうしたフレーズは、クリスチャンの人々なら先刻承知だろうし、クリスチャンでなくてもクリスマスの習慣に精通している人々にはすぐさまピンと来るだろうが、筆者は遥か昔に(c)を辞書で調べてその意味を初めて知るに至った。こうしたオリジナルのクリスマス・ソングにも、非クリスチャンが知らない様々な習慣や風習が歌詞の中に潜んでいることがあり、ついつい見逃してしまいそうな単語でも辞書で調べてみると面白い発見がある。

今年もあとわずか。何かと気忙しい季節ではあるけれども、恋人同士であれ家族であれ、愛おしい誰かと過ごす特別な日は年に何度あってもいいもの。Happy holidays to y’all!

【筆者プロフィール】

泉山真奈美(いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、2012年まで翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「泉山式 翻訳力×英文法講座」)の講師を務めた。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツを担当した。その他、ジャンルを問わずポップス、ロックの訳詞も手がける。

2013年 12月 25日