地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第288回 日高貢一郎さん:NHK仙台放送局の方言活用

2014年1月18日

宮城県を主な視聴エリアとするNHK仙台放送局は、地元の方言をいろいろな形で活用して、地域密着を図っています。そのいくつかを取り上げて紹介しましょう。

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【写真1】 局の玄関に置かれた「やっぺぇ」
【写真1】局の玄関に置かれた「やっぺぇ」

①近年、いわゆる「ゆるキャラ」や「ご当地キャラ」があちこちで誕生して人気を博していますが、NHK仙台放送局では、局のマスコットキャラクター「やっぺぇ」が平成24年4月にデビューし、番組や広報活動などで愛嬌をふりまき、視聴者に親しまれています。

仙台局を訪ねると、玄関で「やっぺぇ」が迎えてくれます。また「やっぺぇ」を紹介したシールがあって、それには

「やっぺぇ」は「やっぺ!」(さあ、やるぞ!)という掛け声から生まれました。頭は吹き出し型で、希望にあふれ、「やっぺぇ~!」といろいろなことにチャレンジし、成長していきます。

とあります。このシールから12種の「やっぺぇ」を取り出して好きなところに貼ることができるようになっています。特に社会科見学などで局を訪れた子どもたちに、喜ばれているということです。

仙台局のホームページによると、「やっぺぇ」のプロフィールは、

出身:宮城県
特徴:吹き出し型の顔と愛らしい唇。やる気あふれる場所に現れるよ。
性格:好奇心旺盛なチャレンジャー
好物:ずんだ・ワカメ・サンマ…など宮城のうめぇもの!

とあり、番組に出たときの「やっぺぇ動画」も見ることができます。また「やっぺぇ」blog、「やっぺぇ」と遊べるゲーム、壁紙、メールマガジンの週刊「やっぺぇ」、それに「ニュースや出来事の情報をお寄せ下さい」と呼びかける「やっぺぇメール」などもあります。

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【写真2】 「ゴジだっちゃ!」のポスター
【写真2】「ゴジだっちゃ!」のポスター

②平日の午後5:00~6:00には、『ゴジだっちゃ!』〔5時だよ〕というラジオ番組があります。この時間帯(午後5:00~6:50)は、全国的には『私も一言! 夕方ニュース』が放送されていますが、『ゴジだっちゃ!』は宮城県域を対象とした独自の番組です。平成24年4月にスタートしました。スタジオと県内各市町村の「だっちゃ通信員」とを電話で結んで、各地域の催しや新しい動き、まちの話題などを、またリスナーから寄せられた川柳や短歌など、多彩な内容を紹介するもので、キャッチフレーズに《宮城100%井戸端ラジオ》とあるように、地域の情報を伝え、相互交流を目指した番組です。(「だっちゃ」については第140回も参照)

なお、インターネットラジオの「らじる★らじる」経由なら、全国どこからでも聞くことができます。

③もうひとつ、ラジオ番組の『ぬぐだまりの宿 みちのく亭』は、月に1回、水曜日の夜9:30~9:55に全国に向けて放送されています。奥羽山脈の山深くにある温泉宿「みちのく亭」の主人・伊奈かっぺいさんが素敵なゲストを迎えて、東北の魅力を語りあうというもので、聞けば心も体もぬくだまる〔温まる〕という趣向の番組です。

④また、テレビでは、『被災地からの声』(総合テレビ毎週木曜の昼0:20~0:43)があります。この番組のタイトルには「方言」はありませんが、内容は、「東日本大震災」で被害を受けた東北各地の被災者を訪ねて行き、今いちばん言いたいことを紙に書いてもらい、それをカメラの前で具体的に、率直に語ってもらうというものです。

震災後間もない平成23年3月にスタート。担当は石巻市出身で、自身も被災者である津田喜章(つだ・よしあき)アナウンサーです。地元の方言が使える強みを活かして、各地を訪ね、話を聴いていきます。問いかけも、共通語でするよりも方言でしたほうがはるかに強い反応が返ってくるということです。

余分な編集は一切せず、収録した声を“そのまま、愚直に放送する”という姿勢で一貫しています。これまでにすでに4000人以上の人に会って話を聴き、約2000人が放送に登場しているということです。被災者のナマの声――その多くはその人のふだん着のことばである「方言」で語られています――それがそのまま電波にのり、視聴者の元に届けられています。画面では話されている内容を、下のほうに文字にして示す配慮がなされています。

なお、月に1回、震災で亡くなった人たちの月命日に当たる毎月11日に、全国放送の「ゆうどきネットワーク」(総合テレビ午後5:10~6:00)の中でも放送されています。

《参考》
 ①『やっぺぇ』については、NHK仙台放送局のホームページにある、「やっぺぇ」を紹介したページ//www.nhk.or.jp/sendai/yappe/index.htmlを参照。
 また、その他の各番組②③④について詳しくは、//www.nhk.or.jp/sendai/を参照。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。