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地域語の経済と社会 第290回 地域ブランド創世のキャッチフレーズは、地域の言葉で「やらまいか」(静岡県浜松市)

2014年 2月 1日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第290回 地域ブランド創世のキャッチフレーズは、地域の言葉で「やらまいか」(静岡県浜松市)

 「やらまいか」とは、浜松市でよく使われる方言で、「やってみよう」「やろうじゃないか」を意味します。浜松商工会議所では、この語を用いた「やらまいか浜松」を地域ブランド創世のキャッチフレーズに採用しています(第261回参照)。

 「やらまいか浜松」認定の品目には、特産のミカンやうなぎに交じって、浜松初のブランド米、その名もずばり「やら米か」(浜松地域特別栽培米研究会)があります。

「やら米か」

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●命名のねらいは?

 「やら米か」は、静岡県浜松市内の浜松地域特別米栽培研究会会員(23人)によって生産される浜松地域初のブランド米です。ネーミングを検討した結果、メインターゲットである浜松の消費者になじみのある方言をもじった「やら米か」に決定しました。

 「やら米か」という言葉には、「(皆で一緒に)やってみよう」という浜松人の心意気を象徴する前向きな思いがこめられています。

 「やら米か」のブランド化活動は、「誰がいくらで買ってくれるか分からない」という意見もあるなか、「何もしなければ何も変わらない、できることから、みんなではじめよう」という、まさに「やらまいか精神」から始まった活動です。

●お客様の反応は、いかがですか?

 お客様皆様、特に浜松地域にもともと住んでいる方の「やら米か」認知度は高く、若い方から年配の方まで商品名に親しみを持ってくださっています。

浜松市外や遠方のお客様には「やらまいか」という方言独特のユニークな響きが受けているようです。

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 ちなみに、ホンダの創業者・本田宗一郎氏(浜松で起業)の評伝のタイトルにも、この言葉が使われています。(梶原一明監修『本田宗一郎の見方・考え方――ビジネスには「やらまいか」精神で当たれ!――』PHP研究所 2007)

 なお、「やらまいか」と、それに類似する表現は、長野県の南部でも使われており、「なやし方言」(第25回参照)の一例に加えられそうです。以下に、その使用例を挙げてみましょう。

[長野県飯田市]
 ・書名
  『やらまいか松尾――自分たちのまちは自分たちの手で――(松尾地区基本構想)』(飯田市:松尾地区自治会 2002)
 ・市政に対する市民からの提言箱の愛称
  「やらまいか提言」(平成10年代半ばから使用)

「やらまいか提言箱」

[長野県木曽福島町]
 ・書名
  『つくらまいか 木曽福島の味』(四季の会(木曽福島町)編・木曽農業改良普及センター 2001)
  『つくらまいか 木曽の味』(四季の会編・発行 2009)

 勧誘表現の全国分布については、GAJ(『方言文法全国地図』国立国語研究所)第5集・第235図・第236図(「行こうよ」)で扱っています。

第235図 http://www2.ninjal.ac.jp/hogen/dp/gaj-pdf/gaj-map-legend/vol5/GAJ5-235.pdf(PDF)
第236図 http://www2.ninjal.ac.jp/hogen/dp/gaj-pdf/gaj-map-legend/vol5/GAJ5-236.pdf(PDF)

 それによると、岐阜(イコマイカ・イカマイカ・イカマイ)・愛知(イコマイ・イカマイ)にも分布のあることがわかります。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

大橋敦夫先生監修の本大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2014年 2月 1日