三省堂辞書の歩み

第25回 ローマ字びき実用国語字典

筆者:
2014年2月12日

ローマ字びき実用国語字典

大正8年(1919)11月29日刊行
藤岡勝二編/本文1363頁/三五判変形(縦130mm)

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【ローマ字びき実用国語字典】1版(大正8年)

【本文1ページめ】

三省堂の辞典で書名に「国語」が使われたのは、本書が最初である。「実用」「字典」とあるように、漢字表記を主とする現在の用字用語辞典に近い。語釈がある項目は少なく、同音・同訓や自動詞・他動詞がある項目に限られている。

内容は、大正6年の『ABCびき日本辞典』と共通点が多い。見出しは改正ヘボン式で、「ん」に相当する撥音は「n」だけを使う。見出しに語構成のハイフンがあるが、活用語の語尾は表示されていない。品詞の表示はなく、動詞・形容詞だけは活用の種類などを語釈の後に記載してある。仮名遣いは、歴史的仮名遣いを誤りやすい語に限り、見出しの後にカタカナで掲載。漢字表記欄は送り仮名を省いている。

基本的には『ABCびき日本辞典』を簡略化し、副詞・接続詞などの国語項目を補ったものと見られる。収録数は、小型辞典でありながら約8万3000項目もある。

単一の漢字項目などに草書体の図版を掲載したことが、今までにない工夫だった。また、折り返した行を前後の項目の余白に入れ込む場合、ブレース記号「 }」が使われた。

●最終項目

Zuzu-tsunagi(ズズ-)数珠繋。

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●「猫」の項目

Neko 猫。小獣の名;芸者;うはべのつつしみ.

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●「犬」の項目

Inu 犬・狗。獣の名;諜者.

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筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。