地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第295回 大橋敦夫さん:まだまだあります、埼玉方言グッズ

筆者:
2014年3月8日

第250回第263回につづいて、埼玉県内で見つけた方言グッズのご紹介を──。

まずは、その名も「方言銘菓 そうなん娘」(深谷市・西倉西間堂)。

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【写真1】

パッケージの裏の説明には、

「そうなん」とは埼玉県北部・群馬県東部地方で使われる方言で「そうですか」という意味です。おもに「相槌(あいづち)」として使われるこの言葉は、相手のはなしに調子を合わせる暖かみのある言葉としてこの地方の人たちに使われています。

と、あります。

つづいて、秩父郡でみつけた味噌2点、その名は「おあがんな」「あちゃむし」。

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【写真2】(クリックで拡大表示)

それぞれのパッケージには、

  「うまい御御御付(おみおつけ)をたっぷりおあがんな」
  「うまい御御御付(おみおつけ)ならあちゃむし この味噌だんべ」

(編集部注=「おあがんな」「あちゃむし」「だんべ」に圏点)

のコピーも添えられています。

命名の由来等を伺ってみました。

*

●たくさんの種類の商品を販売なさっている中で、この2点に方言で名付けをされたのは、なぜですか?

秩父地方の名産である大豆を使用しているので、秩父らしさを出すために、当地の代表的民謡の「秩父音頭」にヒントを得ました。歌詞の中に、「ちいろばよつて おあがんな」[=火のそばへ あおがりください]があり、囃し言葉は、有名な「あちゃむしだんべ」です。

●お客様の反応はいかがですか?

発売から15年ぐらいになりますが、大豆等の原材料の生産地を秩父と限定しているので、埼玉県からも「地産地消食品」の認定をいただきました。製造量と販売量のバランスの良い商品です。

(新井武平商店・新井藤治氏談)

*

以前の例に加えて分析してみると、秩父は、「秩父音頭」を生かして、用例が豊富になっていることがわかります。本連載をまとめた『魅せる方言』(三省堂 2013)でも示している「方言でおもてなし」「方言みやげ・グッズ」「方言メッセージ」「方言ネーミング」などの各例において、「べぇ」の使用が中心になっています。

今後は、埼玉県東部での発見にチャレンジしたいと思っています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。