地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第297回 井上史雄さん:日本と韓国の方言みやげ―韓国国語院の目録―
Dialect souvenirs in Japan and Korea —Catalogue of the National Institute of the Korean Language —

筆者:
2014年3月22日

このシリーズでは、地域語(方言)の経済的活用例を扱ってきました。約300回で多くの方言グッズや方言メッセージが集まりました。日本全国の様子が分かったし、世界の状況もつかめました。数え方は色々ありますが、最低400例は紹介できました。日本と何かと似ているのが、韓国です。このほど韓国国語院から「地域言語文化商品開発」についての報告書が出ました【写真1】。政府機関が乗り出して事例調査をし、商品開発アイディアの公募展を開催して、方言普及の基盤を作るそうです。

(クリックで拡大表示)

【写真1】韓国国語院(2012)『地域言語文化商品開発報告書』
【写真1】韓国国語院(2012)
『地域言語文化商品開発報告書』

報告書は写真入りで、見て楽しめます。写真の半分以上が、日本の例で、全233種(買える方言170、買えない方言63種)です。日本在住の研究者が丹念に記録したおかげです。韓国の事例は268種(買える方言99種、買えない方言169種)だそうですが、収録画像は100枚以下です。かつてインターネットでのバーチャル方言博物館を計画しましたが、韓国の報告書とこの三省堂のシリーズは、方言博物館の図録のようなものです。

三省堂のシリーズで全国から多くの例が集まったおかげで、どの県に多いか、少ないかが分かりました。テーマや種類も、各執筆者が新鮮さを求めたおかげで、多様になりました。理論分類もなされました(第226231236回)。種類ごとにいつ頃から出たかという歴史的観点での整理も進んでいます(第227261292回)。どんな商品・施設にどんな方言が使われるかの傾向も見えてきました(第69134143155回)。またエッセンスをまとめた本『魅せる方言』が出版されました。

民衆による方言の社会的位置付けを示す一級資料として、方言グッズや方言メッセージが重要だと、知られてきたようです。方言学の国際会議やインターネットジャーナルでも方言商品が紹介されるようになりました。

バルセロナ大学の出版物 Dialectologia の該当英語論文へ
www.publicacions.ub.edu/revistes/ejecuta_descarga.asp?codigo=725
※クリックをするとPDF(10.2MB)のダウンロードが始まります。

この分野の今後の大発展を期待しましょう。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。