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地域語の経済と社会 第301回 peccoぺっこ―意味のある方言菓子

2014年 4月 26日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第301回 peccoぺっこ―意味のある方言菓子

《お知らせ》 今回からこの連載を少々模様替えします。一巡を5人はそのままにゲストライターを迎えます。日本語方言研究でよく知られている方々です。また,公開が隔週土曜日(2週に1回)になります。よろしくお願いします。

 さて,方言を,パッケージや個別包装の袋,または,菓子本体にプリントして示した例は,これまで28回紹介しました。最近のものから,295・287・285・276・260・249・248・243・212・209・191・158・134・120・110・104・97・96・80・76・67・57・56・52・20・16・7・5・の各回です(リンクは末尾で)。この28回を含めて食品の方言ネーミング(飲食物関連の方言メッセージや飲食店の例は入りません)は,計63回です。

【写真1】秋田弁(クリックで全体と中の状況)
【写真1】秋田弁(クリックで全体と中の状況)

【写真2】pecco(クリックで箱詰めの状況)
【写真2】pecco(クリックで箱詰めの状況)

 菓子での方言の扱われ方は,第52回「お菓子のバーチャル方言博物館」第76回「出雲弁」第248回「方言名のお菓子の全国展開」を例に理解できます。多くは菓子の内容に有機的関係はみられません。その地方の代表的方言によるネーミングもしくは列挙です。最近では「秋田弁」がユニークです【写真1】。美味であることや品の良いことを謳うネーミングは,食品なので当然だと言えます。味や特徴の修飾として「とても」の意味の方言(「いぎなり」や「めっさ」など)も菓子の状況と直接関係ある表現とは言えないでしょう。

 ネーミングの方言がその菓子(の状況を)的確に示した例=意味のある方言菓子もあります。私の住む岩手県でも,昨年末,新発売されました。その名は「pecco」(ぺっこ)です【写真2】。「ぺっこ」とは,岩手県の中央部や沿岸部で広く使われている方言です。「少し」「わずか」という意味です。少しずつの包装で,これを,少し購入してもいいですし,お客の注文に応じて詰め合わせにもしていただけます【写真2→クリック】。南部せんべいやかりんとうなど,岩手県のお菓子全30種類が用意されました。「pecco」は,初めての岩手県のプライベートブランドであり,県の施設でも販売されています。少しずつと県のプライベートブランドという点では,第158回「OITA AGURU」(大分県:差し上げるの意)も趣旨の通じる例です。

 なお,菓子ではありませんが,第1回の「岩手の酒っこ ひゃっこぐしておあげんせ」(岩手県花巻市石鳥谷町)も,意味のある方言ネーミングの代表例です。

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第295回 まだまだあります、埼玉方言グッズ「方言銘菓 そうなん娘」
第287回 中国語の新しい方言 “QQ”―ドライフルーツとヨーグルト―
第285回 方言と外国語で感謝――大手企業の言語戦略――
第276回 東北弁ならではの英語とのコラボ,ほか
第260回 方言の継承を銘菓に託して(長野県千曲市)
第249回 「よかっぺ号」が関西へ
第248回 方言名のお菓子の全国展開
第243回 青森の方言名のお菓子
第212回 方言ういろの全種類入手法
第209回 なりすましの方言「めっちゃんこ」
第191回 大阪弁の薬
第158回 大分のおみやげ「AGURU」~味の現物カタログ~
第134回 おいしい方言(奈良県)
第120回 山形県にオランダが!
第110回 「おまんた」は不滅です(新潟県糸魚川市)
第104回 おいしい方言(山形県)
第97回 ハワイで見た日本語方言
第96回 ワンポイント方言メッセージ
第80回 北信濃方言に親しめるお店
第76回 出雲弁
第67回 世界唯一の方言チョコレート―リトアニアの方言区画
第57回 究極の方言みやげ保存法
第56回 方言付きの食品
第52回 お菓子のバーチャル方言博物館
第20回 方言によることばあそび
第16回 「おらほ」
第7回 辞書にない方言「おくしょい」の値打ち
第5回 信州人の好きなことば―「ずく」をめぐって―

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

2014年 4月 26日