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Groovin’(1967/全米No.1,全英No.8)/ザ・ヤング・ラスカルズ(1965-1967)

2014年 5月 7日 水曜日 筆者: 泉山 真奈美

歴史を彩った洋楽ナンバー~キーワードから読み解く歌物語~ 第124回

「Groovin'」(日本盤シングル)

●歌詞はこちら
http://www.metrolyrics.com/groovin-lyrics-young-rascals.html

曲のエピソード

本連載第69回で採り上げた「People Got To Be Free(邦題:自由への讃歌)」(1968/全米No.1)の際にはグループ名が単にザ・ラスカルズ(The Rascals)だったが、このザ・ヤング・ラスカルズと同一グループであることは言うまでもないだろう。1968年からグループ名から“Young”が削除された。

複数のアーティストにカヴァーされている「Groovin’」は、彼らにとって「Good Lovin’」(1966)に続く2曲目の全米No.1ヒットである。もうだいぶ前のことだが、この曲についてちょっと調べる機会があり、手元のチャート本のページを繰っていたところ、R&Bチャートでも堂々のNo.3を記録していることが判明(ゴールド・ディスク認定)。更に音楽関係の洋書などで調べてみたところ、当時、NYのラジオDJが先ずこの曲を気に入り、“大ヒット間違いなし!”と太鼓判を押した、というエピソードと、R&B/ソウル・ミュージック専門のラジオ局のDJたちが積極的にこの曲を流した、というエピソードを知って納得した。まだ“Blue-eyed soul(非アフリカン・アメリカンのアーティストによるソウル・ミュージック)”なる言葉が一般的ではない時代であり、更に言えば、モータウンやスタックスといったR&B/ソウル・ミュージック専門レーベル所属のアーティストたちがチャートの上位を賑わせていた頃でもある。にもかかわらず、ヤング・ラスカルズの「Groovin’」(及び他の数曲のシングル曲も)はアフリカン・アメリカンの人々の耳と心を捉えたのだった。所属レーベルの戦略ももちろん奏功したのだろうが、純粋に曲の良さが受け入れられたのだと筆者は思う。

今で言うなら“超”が付くほどのアイドル・グループであり、多忙を極めていた彼らは、“恋人とゆっくり過ごせるのは日曜日ぐらいしかない”ことにハタと気付き、この曲を作ったという。もちろん、“日曜日”は広範囲に捉えて“オフの日”という意味だろう。人気者であるがゆえの悩みからヒントを得て生まれたこの曲によって、彼らの人気は一段と高まり、それこそ恋人とデートどころではなかっただろう。当時の彼らの恋人たちには気の毒かつ皮肉な話だが、それでもこの曲がザ・ヤング・ラスカルズの代表曲のひとつになったことを考えれば、何が幸いするか判らない。

曲の要旨

日曜日の午後にふたりでこうしてゆっくり過ごしていると、ずっとこうしていたくなるよ。ふたりで一緒にいる時が一番幸せなんだ。デートに出掛けたら、ふたりでやりたいことを思いっ切り楽しめるよ。今日みたいに太陽が降り注ぐ日を、これからもこうして一緒に過ごそう。ふたりでずっと話したり笑ったりして時を過ごすんだ。ふたり一緒なら、人生はバラ色だもの。

1967年の主な出来事

アメリカ: デトロイトを始めとする数都市で大規模な黒人暴動が発生。
日本: 「オールナイトニッポン」の放送が開始され、ラジオの深夜放送の人気番組に。
世界: Association of Southeast Asian Nations(ASEAN/東南アジア諸国連合)成立。

1967年の主なヒット曲

Ruby Tuesday/ローリング・ストーンズ
Love Is Here And Now You’re Gone/シュープリームス
Happy Together/タートルズ
I Was Made To Love Her/スティーヴィー・ワンダー
All You Need Is Love/ビートルズ

Groovin’のキーワード&フレーズ

(a) groovin’
(b) the world is ours
(c) laugh one’s time away

ゴールデン・ウィーク明けで今日からいつも通りの日常生活に戻った、という方々も多いことだろう。各メディアでは、毎年この時期に図ったように行楽地の賑わいの様子や日本脱出=海外旅行へ出掛ける人々の姿、そして公共交通機関や道路の混雑ぶりを伝える。筆者ぐらいの年齢になると、知人・友人の大半は家族サービスで疲労困憊、という話も珍しくない。一方では、身軽な独り者の友だちは気ままに過ごしていたりもする。逆に、ゴールデン・ウィーク中はずっと仕事という友人も……。とにもかくにも“お疲れ様”と声を掛けた。

人気アーティストともなれば、長期休暇もままならないのが世の常。ザ・ヤング・ラスカルズもその例外ではなく、曲の要旨でも述べたように、この「Groovin’」は彼らが人気者であったがゆえに誕生した曲である。だから彼らにとっての“ゴールデン・ウィーク(もちろん和製英語)”ならぬ“ゴールデン・デイ(ズ)”は、ごくたまにしか訪れない貴重なオフの日だった。

恐らくそのことが彼らにとっては不満だっただろうが、この曲には不平不満が全く綴られていない。どこまでもゆったり、まったり、そして楽しげなのである。文字通り聴いていると心も身体も“groovin’”。タイトルにもなっている(a)は、非常に日本語にしづらい英語のひとつ。名詞の“groove”に匹敵するピッタリな日本語を筆者は寡聞にして知らない。これがアップ・テンポのダンス・ナンバーなら、“ノリノリな気分になる”とか“アゲアゲ(←既に死語?)で踊ってる”とか、それなりの解釈のしようもあるのだが、これはあくまでもミディアム・テンポのゆったりとしたナンバーであり、どちらかと言えば(a)は“relaxin’”あるいは“havin’ a good time”に近いニュアンス。(a)が含まれるフレーズを省略なしで綴ると、以下のようになる。

♪We are groovin’ on a Sunday afternoon

または

♪I am groovin’ on a Sunday afternoon

続くフレーズでも主語が省略されており、その主語を“We(もしくはYou and I)”,または“I”のどちらかで解釈するのはリスナー次第。筆者は後者の方がしっくりくると思うのだが、如何だろうか?

(b)は直訳すると「世界は僕たち(僕と君)のもの」となるが、これは洋楽ナンバーに頻出する言い回しのひとつで、意訳するなら「何もかもがふたりの手中にある=ふたりの思うがまま」といったところだろうか。愛し合うカップルが一緒に過ごすだけで(b)のような気持ちになることからも、当時、彼らがなかなか恋人と会う時間を持てなかったことが推測される。嗚呼、げに気の毒なのは人気者。

(c)はイディオムで、「時間を笑って過ごす、楽しく過ごす」という意味。辞書の“laugh”の項目に載っている。筆者は遥か昔にこの曲を聴いた時、“laugh ~ away”を「~を笑い飛ばす」という意味だと思い込んでしまった。しかしながら、「ふたりの時間を笑い飛ばす」だと前後のフレーズとしっくりこないことに気付き、その時点でようやく辞書を引いた。(c)は辞書を引かなくても知っている単語だと思って勝手に解釈してしまったことを後々になって後悔したことを今でも思い出す。

この曲が全米チャートにチャート・インしたのは、奇しくも1967年の5月6日。そう、今年のゴールデン・ウィークの最終日に当たる日。思ってもみなかった偶然を発見した瞬間、頭の中でこの曲が鳴り始めたというわけ(苦笑)。考えてみれば、この曲はちょうど今のような薫風が香る季節にピッタリである。

【筆者プロフィール】

泉山真奈美(いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、2012年まで翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「泉山式 翻訳力×英文法講座」)の講師を務めた。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツを担当した。その他、ジャンルを問わずポップス、ロックの訳詞も手がける。

2014年 5月 7日