地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第305回 大橋敦夫さん:いばらきの「~ぺ」補足(茨城+栃木)

筆者:
2014年6月21日
【写真1】ゆずっぺ
【写真1】ゆずっぺ

とても造語力の高い語なので,今後も用例は増えそうです。

さらに,茨城県の隣,栃木県でも,「~ぺ」の追加例を発見【写真1】。

「ゆずっぺ」……栃木県産のゆずを使った清涼飲料水。「すっきり爽やかだべ」のキャッチコピーも添えられています。
「うまかんべ」……純米酒。

このほか,漫画「北斗の拳」での名ゼリフが以下のように栃木弁になってプリントされている方言Tシャツもあります。

「お前はもう死んでっぺ」
「おれの生涯に一片の悔いねえべよ!!」

「ぺ」もしくは「べ」と発音されるこの語は,関東一円で使われるため俗に「関東べい」と呼ばれます。すでに,上で示したほかに,第220回・第250回(群馬),第263回(埼玉) で紹介したので,神奈川県の例が見つかると面白いですね。地理で「太平洋ベルト地帯」というのを習いますが,「関東「べ(ぺ)ルト」地帯」の用例が完成します。

なお,「ぺ」「べ」の地理的分布については,GAJ(『方言文法全国地図』国立国語研究所)第3集・第106~114図(動詞・意志形,推量形)で扱われています。それによると,関東から東北一帯を中心に分布していることがわかります。

このうち,東北の用例については,「方言エール」(第146回)でも,取り上げられており,『魅せる方言 地域語の底力』三省堂(12~13ページ)にも再録されています。

 * 

GAJ(『方言文法全国地図』国立国語研究所)第3集

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。