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新しい英語語彙指導と辞書(3)

2014年 7月 28日 月曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

前回までに英語の語彙力のうち,最も中核となる100語,運用能力のベースを作る2,000語の話をしました。今回はそれらの語彙を身につけるための語彙指導の急所について考えてみます。

II 真の英語力を培う語彙指導の急所とは?

研修会などで痛切に感じること

英語教員の研修で語彙指導のことを話す機会が多くありますが,最も先生方に共通して欠落しているのは「英語力のイメージ」です。どんな力を生徒につけさせたいか,ということの全体像があるかないか,でその先生の指導方法は大きく変わってきます。そしてその全体像がこの20年くらいでコーパス分析などにより具体的にわかってきている様子をお知らせすることで,先生たちの目の輝きが違ってきます。自分たちの教えるべきポイントが明確になってくるからです。

英語教員の先生方は英語の語彙に関するイメージがはっきりすると,ご自身の授業について「あっ,ちょっと待てよ」と振り返ることができるようになります。英語の力をつけるとしたら,何が重要か考えることができます。そうすると,教材の料理の仕方,力点の置き方や置き場所などが変わってきます。

語彙指導の急所として今回は次の2点を考えてみましょう:

・「幹」の単語と「枝葉」の単語の「学習方法を分ける」
「幹」:意味だけでなく,「使いこなし」を学ぶ ⇒ 発信力をつける
「枝葉」:基本的に「意味」だけでよい ⇒ 受信力,数多く覚える
・先生が「幹」と「枝葉」を分けられる。生徒が分ける方法を知っている。

「幹」と「枝葉」を分ける

まず,「幹」の単語と「枝葉」の単語の学習方法を分けましょう。基本100語とそれ以下の単語に関して述べましたが,「幹」となる基本100語の場合は意味だけではなく「使いこなし」を覚えます。一方,「枝葉」の場合は基本的に意味だけ覚えればよいのです。図1を見てください。

3-figure1.png

(図1)

ベタな単語学習をさせてはいけません。基本100語もそれ以外の単語も同じように教えてしまう英語教員がいます。どちらも同じ種類の単語だと思い込んで勉強してしまう生徒がいます。しかし,これらの英語教員や生徒は情報量が多く核になる基本語彙とそれ以外を分けて考える必要があります。基本語彙は数が少ないけれども,しっかり深く学びます。そして周辺語彙は意味だけ知っていればよいもの,または基本語彙と一緒に使いこなしたい語に分けて,大量に覚えます。これが大事なことです。

語彙学習の分野では,偶発的語彙学習(incidental vocabulary learning)と意図的な語彙学習(intentional vocabulary learning)という区別があります。偶発的語彙学習とは、特に意図して学習しようとしているわけではなく、何か他の言語学習(あるいは言語を使った活動)の過程で、偶然にある語彙を学ぶ、ということです。最も良い例は多読です。多読で知らない単語にたくさん触れるうちにたまたま身に付けるという現象があると言われています。日本でも多読を推奨する先生は多く、私も英語力の向上のために是非必要だと思いますが、語彙学習を多読だけでできるかといえば、研究成果を見る限り、少々疑問です。

いろいろな研究を総合すると、多読をしてある単語が頭に入るためには10?20回程度出会う必要があり、それでもその単語のスペリングだとか意味のごく一部分しか頭に残らないことが多いのです。そしてその後、出会わなければかなりの確率で忘れてしまいます。Hill & Laufer (2003)では、2,000語の獲得のためには約800万語に相当するテキスト(平均的な小説で約420冊)に触れる必要があると言っています。これは正直言って中高の現状のカリキュラムではどうやっても無理です。つまり、偶発的語彙学習だけでは語彙はなかなか身に付かない、ということの証拠だと言ってよいでしょう。たまたまいっぱい触れているうちに語彙が身に付くことは極めてまれです。したがって,意図的な語彙学習(intentional vocabulary learning)が必要です。つまり,意図的に自分で計画してやらないといけません。英語教員が「こういう語彙をこう覚えなさい」と指導しなければ,生徒が語彙を身に付けることは厳しいでしょう。

「幹」と「枝葉」を分けられる

そして,英語教員が「幹」と「枝葉」を分けられる,生徒が分ける方法を知っていることが大事です。そのためには100語,2,000語の区切りに関する情報をチェックリストのような形で先生と生徒が共有しいていることが大事です。『エースクラウン英和辞典第2版』では,トップ100語のうちの動詞・前置詞・疑問詞・接続詞など文法的活用度の高い基本語に関して,フォーカスページを設けています。これによって,最重要の100語以内の単語のふるまいと最低限身に付けたい用法を解説しています。

さらにトップ2,000語に関するレベルを CEFR(Common European Framework of Reference for Languages 欧州言語共通参照枠)の A1, A2 の2レベルで示しました。まずはこのレベルの単語は使えるようにならないといけない,という仕切りとして使ってみてください。
さらに現在以下のようないろいろな資料類が出ています。適宜参考にしてください。

・投野由紀夫『コーパス超入門』(小学館)
トップ100語の詳しい内容の解説。トップ2,000語の分類と使い分けの解説などが出ている。
・BNC を分析した語彙表
私の分析の基となった British National Corpus の語彙統計です。
何種類か出ていますが,以下の物は無料で使えます:

・WordSmith の Mike Scott 作成のリスト(WordSmithというソフトで開けます):
http://www.lexically.net/downloads/version4/downloading%20BNC.html
・Adam Kilgarriff の lemma list (活用形などをまとめて辞書形に整理したリストです。上位6,318語が閲覧できます。1億語の BNC の中から800回以上の頻度があった単語のみを選んであります)
http://www.kilgarriff.co.uk/BNClists/lemma.al
・Lancaster BNC Frequency Lists
Leech, Rayson, & Wilson (2001) Word Frequencies in Written and Spoken English (Routledge) のコンパニオンサイトの情報
全体,話し言葉,書き言葉,品詞別などのリストが取り出せます
http://ucrel.lancs.ac.uk/bncfreq/flists.html

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
この連載への質問や感想は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「新しい英語語彙指導と辞書」への質問・感想である旨を記してご投稿ください。

2014年 7月 28日