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地域語の経済と社会 第308回 富山県の観光PR誌『ねまるちゃ』

2014年 8月 2日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第308回 富山県の観光PR誌『ねまるちゃ』

 北陸・富山県は,東の東京,西の大阪,その中ほどに位置する名古屋の,日本三大都市圏からほどほどの距離の便利なところに位置しており,そのどこからも比較的訪ねやすい県だと言っていいでしょう。

(クリックで全体を表示)
【写真1】『ねまるちゃ』第4号の表紙
【写真1】『ねまるちゃ』第4号の表紙
【写真2】『ねまるちゃ』第4号の本文から
【写真2】『ねまるちゃ』第4号の本文から

 都会での生活に疲れた人たちに,「たまには日頃の緊張や喧噪から解放されて、富山でゆったりのんびり過ごしてみませんか?」と誘うメッセージを誌名にした富山県庁発行の観光PR誌(全16ページ,季刊,無料配布)【写真1】があります。誌面上段には大きく『ねまるちゃ』,その上には小さく「くつろぎ、ときめき。富山で休もう。」とあり,タイトルのすぐ左下には,この号の内容「富山で休んでかれ。」〔…休んでいきなさい〕などの記事の見出しが並んでおり,左下には「パノラマ キトキト 富山に 来られ」というアピールも方言でしっかり書いてあります。「キトキト」は有名な富山の方言で,〔活き活き,溌剌とした〕という意味で,「富山に来られ」は〔富山にいらっしゃい〕という意味です。

 表紙をめくると【写真2】,遠景にはまだ雪の残る立山の緑の山肌が,近景には「みくりが池」の青く澄んだ湖面に流れ込んだ残雪が浮かんでいて,ちょうど今頃,汗が噴き出る真夏にこの風景を見ていると,汗も消えていきそうな涼しげな写真が紙面を飾っています。

 そして誌名の由来が,見開きの左上に「「ねまる」とは富山弁で「座る・休む」の意味で,富山でゆっくりくつろいで休んで欲しいという願いをこめてつけられたネーミングです。」と解説されています。「~ちゃ」は,〔~(しなさい/なんです)よ〕という意味あいの文末詞です。前に大分方言の「~(っ)ちゃ」を紹介しましたが,第253回の『おおいたっ茶』第278回のデパートの現金ポイントカード『ルッチャ!』の場合と同じく,富山の「ちゃ」も,「~といえば」⇒「といやぁ」⇒「てや」⇒「ちゃ」と変化してできたと考えられます。

 発行元の富山県観光・地域振興局によると,部内でまず意見を出し合い,県出身の首都圏の若者たちと意見交換するなどし

富山県の観光キャッチフレーズ「富山で休もう」との連動
富山らしさが出ていて興味を引くもので,手にとってもらえるようなインパクトがあること
既存の観光課の観光パンフレット『ロカルちゃ』(ローカル+カルチャーの造語)との関連

これらを意識して決定したものだということです。

 地域のより印象的なPRに,このようないかにもその土地らしさをアピールできる方言を活用するのは,特に観光客誘致などの分野においては昔からある手法の一つです。この連載でも第32回をはじめ,第36回,第44回,第111回,その他,各地での事例が多数報告されています。(この記事の後の「目次へ」「アーカイブへ」からたどることができます)

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インターネット上でも,この『ねまるちゃ』を見ることができます。

http://www.info-toyama.com/toyamakanko/statics/doc2/nemarucha/

「ねまるちゃとは?」をクリックすると,サイドバーにバックナンバーが出てきます。ここからこれまで発行された号がPDFで見られます。
今回とりあげた第4号は以下にPDFがあります。

『ねまるちゃ』第4号 2014夏号(PDF:4.5MB)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学名誉教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

2014年 8月 2日