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新しい英語語彙指導と辞書(5)

2014年 8月 22日 金曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

 前回は教科書の本文を見て,「使いこなすべき単語」,「意味だけ知っていればいい単語」,「忘れていい単語」という区別をしっかりつけて,その区別に従って語彙学習の戦術を練る,ということをお話ししました。今日は具体的にテキストにある重要な基本動詞を料理する方法を考えてみます。

テキストに基本動詞の応用例を

 ほかにも先にあげたテキストを見ると,break,call,getなど,基本100語に含まれる単語がいろいろな形で使われています。

If the mosquito likes you, she lands on your skin very gently, and she breaks it with her proboscis tip. Proboscis tip? What’s that? It’s a kind of mouth and it is just under the mosquito’s eyes. It contains six sharp instruments called stylets. She pushes all six stylets into your skin at once, and if she hits a blood vessel, she’ll get a full dinner in about a minute. All this usually takes place so quickly and quietly that you may not have noticed anything was happening.

 下線部の単語と一緒に覚えることも1つの方法です。例えば,get a full dinner(ごちそうを食べる)のように,基本語と周辺の語を組み合わせた表現の練習をたくさん仕込むことができます。それは,英語教員が先に示した語彙力のイメージをつかんで,どんな語彙力をつけたらよいかという目利きができているかによるわけです。

単独ではなく「幹+枝葉」をセットで覚える

 単語を単独で覚えるのではなく,「幹」と「枝葉」をセットで覚えられるとよいでしょう。前にお話しした基本100語や1,000語の単語は中央にあり,情報量もたくさんあります。周辺の2,000語や3,000語の情報量は少ないです。しかし,それらを個々に覚えるのではなく,何度もいろんなところに出てくる基本語彙と周辺の「枝葉」の語彙をセットにして覚えると効果的です。

単語は単独では存在しない

 例えば,先にあげたテキストには take place や notice が出ています。これらは高校初級レベルでは覚えておきたい表現です。従来の単語学習のイメージだと,take place「起こる,行われる」,notice「気付く」のように,つづりに対して意味を覚えてテストをして終わりです。もちろん,英語教員の中には5,6個の例文を覚えさせる方もいるでしょう。もちろん受容語彙ならばそれで構いません。中学生は notice の意味を知っているだけでよいでしょう(図1)。

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(図1: 単語は単独では存在しない)

 ただ,高校3年生の発信語彙になると,創意工夫が必要です。図2を見てください。take place や notice がどんな語句と結びついて使われるかということに注目しましょう。take place ならば,何が「起きる」のかということです。いろんなものが take place します。皆さんは take place するものを10個くらいまとめて書けますか。これは英語力と関係があります。どんなものが take place するかという語感が大切で,take placeだけ知っていてもあまり意味がありません。
 notice の場合ならば,何に「気付く」のでしょうか。notice の目的語の典型例を少しでも知っていた方が得です。

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(図2:単語を使いこなすための情報)

 これらのことはコーパスを調べるとよく分かります(図3)。take place の主語を分析し,統計情報をもとに典型的なパターンを見つけて,生徒に練習させるとよいでしょう。event(行事),meeting(会議),ceremony(儀式)などが take place の主語になります。The discussion takes place.(議論が行われています)は,日本人にはなかなか出てこない英文ではないでしょうか。この中には,レベルが少し高いものもありますが,このようなリストさえあればチャンクで覚えさせた方がよいです。そうすると,take place が何と一緒に起こるかということ,何が起こるかというイメージがすごく湧きます。take place のように「幹」になる表現と,ceremony,event のように「枝葉」になる単語がマッチするわけです。これらのことは,最近よく紹介されるチャンクやフレーズ学(phraseology)にも通じています。

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(図3:「枝葉の語」+take place)

 同じことが notice にも言えます(図4)。notice と difference(違い,差),change(変化),problem(問題)をセットにして覚えておくと,「あっ,なるほど! 『違い』に『気付く』というようなことをよく言うんだなあ!」ということが分かり,語感が身に付いてきます。単純に notice を「気付く」と覚えるだけでは,日本語のイメージが刷り込まれてしまいます。いくつかの英語のフレーズで覚えておくように練習ができると,発信語彙を習得する上では効果的でしょう。

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(図4:notice +「枝葉の語」)

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
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2014年 8月 22日