三省堂辞書の歩み

第33回 模範国漢文辞典

筆者:
2014年10月15日

模範国漢文辞典

昭和2年(1927)11月8日刊行
三省堂編輯所編/本文(国語之部)744頁+(漢字之部)304頁/菊判半裁(縦153mm)

【模範国漢文辞典】20版(昭和2年)

【国語之部 本文1ページめ】

【漢字之部 本文1ページめ】

本書は、明治39年(1906)刊行の『国漢文辞典』の後継にあたる辞典である。本の体裁は、大正7年(1918)刊行の『国漢文辞典』縮刷版に近い。

前著との大きな違いは、「国語之部」と「漢字之部」の二部構成になったことだ。収録した語句は、中学校・師範学校・高等女学校などの教科書や試験問題から広く選択したという。例えば、前著の「例言」に使われた「前人」や「未発」は、ちゃんと項目になって掲載された。

ただし、国漢文辞典は和語と漢語に特化したものなので、外来語を載せることはしていない。それでは不便だという声があったのか、昭和7年からは「外来新語解」16頁(約1200語)を追加した普及版(B6判)が刊行されている。

国語之部の見出しは、おおむね文部省国語調査会制定の仮名遣改定案(大正13年)によった「写音的仮名遣」となり、かなり引きやすくなった。写音的仮名遣いは、三省堂では大正14年(1925)刊行の『広辞林』で音読語に限って採用されたが、本書では訓読語にも適用されている。

さらに、促音・拗音の小書き仮名が見出しだけではなく、歴史的仮名遣いの語釈にも用いられている。また、語構成を示す区切りが見出しに加わった。

文法情報に関しては、前著では動詞・形容詞の語尾変化を載せていた。本書では、動詞は自動詞・他動詞の区別と活用の種類を載せ、形容詞はク活用・シク活用の区別を載せている。

漢字之部には、「部首別索引」37頁と「総画索引」28頁が前後に配置され、読めない字でも引くことが可能である。文部省国語調査会の査定による常用漢字の場合は「常用」の表示があって、字体整理案(大正15年)に基づく字体は親字のすぐ下に同じ大きさで掲載された。

漢字の音は、漢音を右側に、呉音を左側に掲載。共通の場合は中央に載せ、唐音・宋音・慣用音があれば括弧で掲げる。韻字と四声も載っているから、まるで漢和辞典のようだ。そして、熟語は和語も漢語も読み方だけを載せ、国語之部で意味を引くようにしてあるのだった。

●最終項目

     

*国語之部

*漢字之部

●「猫」の項目

*国語之部

*漢字之部

●「犬」の項目

*国語之部

*漢字之部

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。