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地域語の経済と社会 第316 回 『鉄のふるさと』から『ふるさとのことば』へ―釜石駅の歓迎メッセージ―

2014年 11月 22日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第316回 『鉄のふるさと』から『ふるさとのことば』へ―釜石駅の歓迎メッセージ―

 今回は,岩手県釜石市のJR釜石駅の方言メッセージを紹介します。降り立ったお客を「よくおでんした釜石へ」〔よくいらっしゃいました釜石へ〕でお出迎えです【写真1】。ホームに向かうお客は「またおでんせ釜石へ」〔またいらっしゃい釜石へ〕でお見送りです【写真2】。地方の駅の方言メッセージは,最近珍しくもありませんが,釜石では『ふるさとを見直す』大きな意味があります。

(画像はクリックで拡大全体表示)
【写真1】釜石駅お出迎えの方言メッセージ
【写真1】釜石駅お出迎えの方言メッセージ
【写真2】釜石駅お見送りの方言メッセージ
【写真2】釜石駅お見送りの方言メッセージ

 以前,【写真1】の場所のメッセージは,「鉄のふるさと釜石へようこそ」でした[注1]。釜石は,江戸時代末期に日本の近代製鉄が始まった「鉄のふるさと」です[注2]。それが,平成24(2012)年12月の東北沿岸4駅一斉リニューアル時[注3]に,方言メッセージに替えられました。

 平成23(2011)年3月の東日本大震災以降,方言エールの同時多発的使用に象徴される『ふるさと(のことば)の見直し』が各地でありました。釜石でも同様でしたが,他の地域とは趣旨が異なります。他では震災以前も方言の拡張活用が相応にありました。釜石は方言の拡張活用例の少ない土地でした[注4]。明治から昭和に『鉄の町』として発展してきました。製鉄所の従業員など他地方からの転入者も多い土地でした。方言調査で製鉄所の前の道路を指して「あの道から向こう(は,人の生活やことばが違う)」とのご説明もありました。

 伝統的方言も勢力があります。震災後は「ふるさと釜石」の見方が強くなりました。第251回「最近の『方言エール』」(【写真4】釜石の復興の印「まる」,【写真5】意思を示す幟(クリックで他の例も表示します))などのように方言の拡張活用例が大きく増えたのです。あらためて「地域語の底力」の大きさ強さが実感されます。

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[注1]第46回「『かきくけこ』―5文字で完結する観光の方言メッセージ―」【写真5】の陸中山田駅の例(東日本大震災で焼失)と同じJR東日本盛岡支社の統一デザインの横断幕でした。

[注2]安政4年12月(1864年1月),大島高任(おおしま たかとう)により日本初の商用高炉が稼動開始しました。

[注3]1日に宮古駅(岩手県宮古市),2日に気仙沼(けせんぬま)駅(宮城県気仙沼市),8日に当駅,15日に盛(さかり)駅(岩手県大船渡市)です。

[注4]釜石の震災前からの方言の拡張活用例は3例みとめます。JR釜石駅待合室の物産展示ウインドー「見だんせ!かまいし」(方言メッセージ:2007年~),地域ラジオ番組「釜石やっぺしFM」(方言ネーミング:2010年~),只越町「まちかど交流館・かだって」(方言ネーミング:2012年~:震災津波で傾斜,解体後「みんなの家・かだって」として再建)です。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2014年 11月 22日