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三省堂辞書の歩み 図解現代百科辞典

2015年 2月 18日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第37回

図解現代百科辞典

昭和6年(1931)12月1日第1巻刊行/本文432頁
昭和7年(1932)3月25日第2巻刊行/本文488頁
昭和7年(1932)6月20日第3巻刊行/本文454頁
昭和7年(1932)9月25日第4巻刊行/本文476頁
昭和8年(1933)1月15日第5巻刊行/本文552頁
三省堂百科辞書編輯部(代表者斎藤精輔)/菊倍判変形(縦279mm)

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左:【図解現代百科辞典】初版(昭和6~8年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は『日本百科大辞典』全10巻(明治41年~大正8年)に次ぐ、三省堂における百科事典の第二弾である。装丁は背革・天金。本文にアート紙を使い、1巻あたり500頁前後にすることで本が重くなることを防ぎ、他にはないスリムさが洒落た印象を与える。ただし、昭和10年には、全2巻に変更された。

 画期的なのは、書名に「図解」とあるとおり、写真や図をできる限り載せていることだ。ほとんどのページで、紙面の半分は図版が占めている。アート紙を使ったのは、写真を鮮明に見せるためだった。さらに、別刷りのカラー図版もある。

 内容見本では、「断然他の追従を許さず」「一見明瞭一読了解『図解と文字の合成』百科」「豪華版の風貌・普及版的廉価・時代を劃する編輯法」と謳っている。

 編集のヒントになったのは、イギリスの『I・SEE・ALL』(1928~30年)という10万点もの図版を掲載した百科事典。これは、文字より図版の占める割合が多かった。

 本書が『日本百科大辞典』と異なる点は、見出しがすべてカタカナで、仮名遣いは表音式になり、横に小さく歴史的仮名遣いを示したこと。また、長音符号の「ー」は「あ」の前ではなく、読まない方式で配列してある。表音式と長音符号については、『広辞林』(大正14年)からのものだが、和語の見出しまで表音式にしたのは本書が最初だった。

 「猫」「犬」の項目を『日本百科大辞典』と比較すると、犬のほうが詳しく書かれていて写真も多いことは変わらないものの、かなり簡潔な記述になっている。とにかく、『日本百科大辞典』は詳細を極めすぎたきらいがあった。そこで、文章を口語体に改め、内容や価格を万人向けにしたのである。

 本書の第1巻刊行と同年の11月から、平凡社が『大百科事典』全28巻(昭和6~10年)を刊行し始めている。また、冨山房は『日本家庭大百科事彙』全4巻(昭和2~6年)があり、のちに『国民百科大辞典』全15巻(昭和9~12年)を刊行する。競争相手が次々と現れた時期なのだった。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

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●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

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●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

◆辞書の本文をご覧になる方は

図解現代百科辞典:

近代デジタルライブラリー『図解現代百科辞典』第1巻のページへ

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。

2015年 2月 18日