三省堂辞書の歩み

第40回 学習百科辞典

筆者:
2015年5月13日

学習百科辞典

昭和9年(1934)9月15日刊行
三省堂百科辞書編輯部/本文1526頁/菊判(縦222mm)

学習百科辞典

【学習百科辞典】13版(昭和9年)

【本文1ページめ】

本書は、『新修百科辞典』(昭和9年)刊行の半年後に出版された。主な対象を小学校上級生とし、実業補習や中等諸学校初級も含め、一般国民の常識を養う目的で編集されている。

見出しは、『図解現代百科辞典』(昭和6~8年)と同様、すべてカタカナである。また、発音式の仮名遣いとし、歴史的仮名遣いを小さく添え、長音符号「ー」は読まない配列も同じだった。

解説文には振り仮名が多く付けられ、総ルビに近い。文語体ではなく口語体で書かれ、序文では「くだけた書きかた」としているが、「かみ砕いた書き方」ということだろう。

例えば「味の素」は、以下のようになっている。

『新修百科辞典』
調味料の一種。小麦粉の麩素から製造したもので、主成分はグルタミン酸ナトリウム塩である。池田菊苗博士が昆布の味を研究して、其美味の根源がアミノ酸の一種グルタミン酸であることを知って発明したもの。

『学習百科辞典』
調味料の一種。小麦粉の蛋白質を分解して造った白色の粉で、よく湯水に溶け、ごく少量でも食物の風味を増す。

なお、『図解現代百科辞典』では「辞典」がなく「辞書」の項目のみだった。『新修百科辞典』では「辞典」を空見出しにして「辞書」の項目に詳しく書かれている。本書では「辞書」の項目がなく「辞典」だけ、といった変遷も興味深い。

本文の途中には、アート紙による写真やカラー彩色図版が48点挟み込まれている。『新修百科大辞典』より点数は減ったが、猫は写真がない代わりに図版が載り、犬の写真は8点から28点に増え、『図解現代百科辞典』の21点より多い。

本書の定価は3円50銭で、特価3円だった。昭和14年の121版からは増補版として47頁分の補遺が追加され、定価4円80銭、特価3円90銭になった。

●最終項目

ワンリュウ〔湾流〕 「メキシコ湾流」に同じ。その項を見よ。

●「猫」の項目

●「犬」の項目

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。