« タイプライターからコンピュータへ:QWERTY配列の変遷100年間(2) - 漢字雑感 第4回 漢字検索のための道具(1) 漢字番号索引 »

地域語の経済と社会 第332回 地方議会の方言―アホ・バカ分布再考―

2015年 7月 11日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第332回 地方議会の方言―アホ・バカ分布再考―
Dialect in local assemblies ―Reconsideration on distribution of AHO & BAKA (fool)―

 今回は,地方議会会議録を横断検索できる「地方議会会議録検索システム」を紹介します。新しいバージョンでは,使用状況が日本地図に示されます。地方差のありそうな単語で検索すると,数秒後に地図が出ます。その中の一つ「あほ」を紹介しましょう。他の言い方が混じらないように「あほな」「アホな」「阿呆な」で検索してみました。

(画像はクリックで拡大)
【図】地方議会会議録の「あほな」の出現頻度
【図】地方議会会議録の「あほな」の出現頻度

 地方議会のまじめな場面で使われるか心配しましたが,議員さんも結構くだけたことを言っているようです。「あほな」は645例見つかりました【図】。主に近畿地方で,「あほな質問しましたな」などと生き生きと活用されています。対抗馬「ばかな」は11,267例で,日本全国で使われます。「こんなばかな話はない」などと使われます。「たわけた」は41例。「たわけたこと言わんでください」などと,東海地方と中国地方で使われています。

 アホとバカは松本修『全国アホ・バカ分布考』(太田出版)で有名になりました。東西差と思われていたのですが,実は京都中心の方言周圏論があてはまるのです。全国に分布する様々な言い方は,文献に出た年代と比べると,年速1キロ前後で広がったと見られます。

 様々な言い方の一つ,ダボは,甲南大学の都染直也さんによると兵庫県加古川市周辺でほぼ年速1キロで広がりつつあるそうです。でも会議録には出てきませんでした。なお,某兵庫県民(特に名を秘す)は,以下のように書いています。

いくら兵庫県議会のヤジでも,「そんなあほなこと言うな」はスルーされるでしょうが,「何言うとんね,ダボ」は審議が一時中断する事態になるだろうと思います。

【写真】「平成播州ことば大番付」
【写真】「平成播州ことば大番付」

 アホは良い意味ではないので,商品に「買わせる方言」として使われることは少ないと考えられます。姫路の「平成播州ことば大番付」では,数が多いだけに,東方前頭(上から2段目4番目)に「あほんだら」が載っていました【写真】。「地方議会会議録」では高知県の引用例があるだけです。議員さんも使用を控えているようです。

 「地方議会会議録」は,インターネットで検索すると,たどりつけます。横断検索できる「地方議会会議録検索システム」は,全国の地方議会の議事録を集めたデータです。単語や文で検索でき,どこの誰が使ったかも分かります。使いたい方はhttp://local-politics.jp/の「連絡先」から木村泰知さんにご連絡ください。

* * *

◆この連載を続けてお読みになる方は
「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」アーカイブへ

◆記事のタイトルからお探しになる方は
「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」目次へ

【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『魅せる方言 地域語の底力』『ことばの散歩道』井上史雄(いのうえ・ふみお)
国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』『ことばの散歩道』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

2015年 7月 11日