三省堂辞書の歩み

第42回 常用漢字新辞典

筆者:
2015年7月15日

常用漢字新辞典

昭和7年(1932)7月5日刊行
三省堂編輯所編/本文227頁/三五判変形(縦138mm)

コンサイス独和辞典

【常用漢字新辞典】5版(昭和7年)

【本文1ページめ】

本書は、大正12年(1923)刊行の『常用漢字の字引』を元にした改訂版である。前著は常用漢字1962字+常用略字154字=計2116字だったが、常用漢字1858字+略字155字=計2013字になった。今回の常用漢字は、臨時国語調査会による昭和6年6月発表の「常用漢字表(修正)」に基づいている。

本文の漢字の配列は総画数順で、同画数内は『康熙字典』の部首順。巻頭に部首順の「常用漢字の表」を掲載している。巻末には「発音索引」があり、ほかに「部首の順序」「部首の名称」「字音仮名遣一覧」があるのも変わりない。

前著と同様に、音が複数ある場合にのみ「読例」として熟語を載せ、それ以外に熟語は掲載していない。また、各漢字の草書体も載せているが、筆書きのような字形からペン字になった。

大きな変化は、上製本から並製本になったことである。定価は50銭から20銭になり、いっそう購入しやすくなった。

本文では、表記の変更や字義の追加などをしている。例えば「一」の8番目では、「ことばのうへにおいてそのいみをつよめる字」から「ことばの上(ウヘ)においてその意味(イミ)をつよめる字」となった。

また、「乙」に3番目の字義「気(キ)のきいてゐること」が加わった。なお、「気」には略字が使われていて、現行の新字体とは異なる「气+ノ」である。現在、この字体を載せている漢和辞典は、ほとんどない(『新潮日本語漢字辞典』には掲載)。

「丁」では、「一 テイ」の字義の最初に「干(カン)の第四(ダイシ)。ひのと」が加わっている。十干(じっかん)の4番目ということだ。当時は、成績評価などに「甲・乙・丙・丁」が使われていた。

ちなみに、干支(えと)は「十干」(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)と「十二支」(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)の組み合わせによって60通りがある。大正13年(1924)は「甲子」(きのえね)にあたり、阪神甲子園球場が竣工された年だった。最初の「甲」と「子」の組み合わせが再び現れるのは61回目だから、「還暦」とは数え年で61歳のことである。阪神タイガースの初優勝は、甲子園球場ができて62年目の1985年、乙丑(きのとうし)だった。

●最終項目

●「猫」の項目

●「犬」の項目

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。