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タイプライターからコンピュータへ:QWERTY配列の変遷100年間(3)

2015年 7月 16日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・特別編第3回

QWERTY配列の変遷100年間(2)からつづく)

1878年1月、E・レミントン&サンズ社は、「Remington Type-Writer No.2」を発売しました。プラテン・シフト機構を搭載することで、38キーで76種類の文字を打ち分けられるタイプライターです。「Upper Case」キーを押すと、プラテンが機械後方(オペレータから見て奥)へ移動し、その後は大文字や記号が印字されます。「Lower Case」キーを押すと、プラテンが機械前方(オペレータから見て手前)へ移動し、その後は小文字や数字が印字されます。この「Remington Type-Writer No.2」のキー配列は、以下のようになっていて、アルファベットに関しては「Sholes & Glidden Type-Writer」を踏襲していました。

1878年1月時点の「Remington Type-Writer No.2」のキー配列

1878年1月時点の「Remington Type-Writer No.2」のキー配列

1882年8月設立のウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社は、同年12月に「Remington Standard Type-Writer No.2」を発売しました。内部機構的には、「Remington Type-Writer No.2」とほとんど同じだったのですが、ショールズの特許を忌避するために、キー配列が変更されていました。MがNの右側に移動し、CとXが入れ替えられていたのです。

1882年12月時点の「Remington Standard Type-Writer No.2」のキー配列

1882年12月時点の「Remington Standard Type-Writer No.2」のキー配列

1895年3月設立のワーグナー・タイプライター社は、設立とほぼ同時に「Underwood Typewriter No.1」を発売しました。「Underwood Typewriter No.1」はフロントストライク式のタイプライターで、アップストライク式の「Remington Standard Type-Writer No.2」とは印字機構が全く異なっていましたが、しかし、そのキー配列はほとんど同一でした。ただ、プラテン・シフト機構の違いを反映して、「Underwood Typewriter No.1」では、下段の左端に「Shift Key」が準備されていました。「Shift Key」を押している間だけプラテンが持ち上がり、大文字が印字されるのです。「Shift Key」を離すとプラテンが降りてきて、小文字が印字される仕掛けでした。一方、下段右端の「Shift Lock」キーは、「Shift Key」を押したままにしておくためのキーでした。

「Underwood Typewriter No.1」のキー配列(U.S. Patent No.633672)

「Underwood Typewriter No.1」のキー配列(U.S. Patent No.633672)

さてここまでは、キー配列の変遷が、あたかも一本道であるかのように説明してきました。しかし、現実のキー配列は、様々な枝分かれを繰り返したり、あるいは複数のキー配列が統合されたりして、現代に至っているのです。それらの枝分かれのうち、工業規格として標準化されるに至った3つの大きな枝を、次回以降は辿っていくことにしましょう。すなわち、日本のJIS X 6002に至る過程を(6)で、アメリカのANSI INCITS 154に至る過程を(4)で、国際規格のISO/IEC 9995に至る過程を(5)で、それぞれ辿ることにいたします。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://slashdot.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。

2015年 7月 16日