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タイプライターからコンピュータへ:QWERTY配列の変遷100年間(4)

2015年 7月 23日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・特別編第4回

QWERTY配列の変遷100年間(3)からつづく)

1933年6月、IBMはエレクトロマチック・タイプライターズ社を買収し、「IBM Electromatic」の販売を開始しました。「IBM Electromatic」は42キーの電動タイプライターで、電動のシフト機構によって、84種類の文字を打ち分けられるようになっていましたが、コンマとピリオドはシフトしないようになっており、実際には82種類の文字が搭載されていました。アルファベットのキー配列は「Remington Standard Type-Writer No.2」を踏襲していましたが、数字や記号は独自のキー配列となっていました。

1934年2月時点の「IBM Electromatic」のキー配列

1934年2月時点の「IBM Electromatic」のキー配列

その後IBMは、「IBM Electromatic」の数字キーを左に一つずらしています。この際に、数字の1は小文字のlで代用することにし、代わりに分数を2種類追加しています。

1938年1月時点の「IBM Electromatic」のキー配列

1938年1月時点の「IBM Electromatic」のキー配列

この「IBM Electromatic」の新しいキー配列は、1948年10月発売の「IBM Electric」にも、そのまま搭載されました。さらにIBMは、1961年7月に「IBM Selectric」を発売します。「IBM Selectric」は、活字ボールによる印字機構を採用しており、活字ボールを変更することで、フォントや搭載している文字を変更できるようになっていました。その意味では、キー配列も自由に変更可能だったのですが、「IBM Selectric」の44キーの標準キー配列は、「IBM Electric」を踏襲したものになっていました。

「IBM Selectric」標準キー配列

「IBM Selectric」標準キー配列

IBMは、「IBM Electric」や「IBM Selectric」のキー配列をアメリカ規格協会に提出し、その標準化を画策しました。1966年7月、アメリカ規格協会はASA X4.7という規格を制定し、その中で「Electric Typewriter Keyboard」と「Manual Typewriter Keyboard」というタイプライター用のキー配列を標準化しました。この「Electric Typewriter Keyboard」は、「IBM Electric」のキー配列そのものでした。

ASA X4.7「Electric Typewriter Keyboard」

ASA X4.7「Electric Typewriter Keyboard」

1971年3月、アメリカ規格協会はANSI X4.14という規格を制定し、その中で「Logical Bit Pairing」と「Typewriter Pairing」というコンピュータ用のキー配列を標準化しました。この「Typewriter Pairing」は、「IBM Selectric」のキー配列をコンピュータ用に改良したもので、ASCII(American Standard Code for Information Interchange)の94種類の文字を、47キーに配列したものでした。

ANSI X.14「Typewriter Pairing」

ANSI X.14「Typewriter Pairing」

1988年1月、アメリカ規格協会は、これらのキー配列規格を統合し、ANSI X3.154という規格を制定しました。タイプライターとコンピュータとで異なっているキーは、規格上は空欄にしておいて、その実装は各社にまかせるという形にしたのです。

ANSI X3.154

ANSI X3.154

ANSI X3.154は、その後2002年1月にANSI INCITS 154という規格番号に変更されましたが、キー配列そのものは変更されませんでした。アメリカのコンピュータのキーボードで、今も2のシフト側に@が収録されているのは、このANSI INCITS 154に従っているからなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://slashdot.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。

2015年 7月 23日