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タイプライターからコンピュータへ:QWERTY配列の変遷100年間(5)

2015年 7月 30日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・特別編第5回

QWERTY配列の変遷100年間(3)からつづく)

1911年3月、シカゴ・バーリントン&クインシー鉄道は、モークラム社の「The Morkrum Printing Telegraph」を用いた電信業務を開始しました。「The Morkrum Printing Telegraph」は、アルファベット大文字26字、数字10字、記号17字と空白を通信できる遠隔タイプライターで、以下のようなキー配列でした。「FIG」キーを押すと、その後は数字と記号が、「REL」キーを押すと、その後は大文字が印字されます。「CAR RET」はキャリッジリターンを、「LINE FEED」は改行を、それぞれ意味していました。

「The Morkrum Printing Telegraph」のキー配列

「The Morkrum Printing Telegraph」のキー配列

その後、モークラム社は、1925年1月にモークラム・クラインシュミット社に、1928年12月にテレタイプ社になります。テレタイプ社は、1931年11月、AT&TのTWX(テレックス)サービス開始に合わせて、「Teletype Model 15」を発売しました。「The Morkrum Printing Telegraph」以来のキー配列を基本的には踏襲しているものの、「FIG」は「FIGS」に、「REL」は「LTRS」になっており、記号はほとんどが変更されていました。

「Teletype Model 15」のキー配列

「Teletype Model 15」のキー配列

1963年5月、テレタイプ社は「Teletype Model 33」を発表しました。「Teletype Model 33」は、ASCIIの大文字26字、数字10字、記号37字などを通信できる遠隔タイプライターで、数字キーがQWERTYUIOPから独立して最上段に移動していました。

「Teletype Model 33」のキー配列

「Teletype Model 33」のキー配列

1971年3月、アメリカ規格協会はANSI X4.14という規格を制定し、その中で「Logical Bit Pairing」と「Typewriter Pairing」というコンピュータ用のキー配列を標準化しました。この「Logical Bit Pairing」は、「Teletype Model 33」のキー配列をコンピュータ用に改良したもので、ASCIIの94種類の文字を、48キーに配列したものでした。

ANSI X4.14「Logical Bit Pairing」

ANSI X4.14「Logical Bit Pairing」

「Logical Bit Pairing」をもとに、国際標準化機構では1975年7月、ISO 2530という国際規格を制定し、コンピュータ用の「48-key Layout」を標準化しました。

ISO 2530「48-key Layout」

ISO 2530「48-key Layout」

ISO 2530の「48-key Layout」は、あくまでもキー配列の目安に過ぎなかったため、各国は必ずしもこれに従いませんでした。アメリカは、2のシフト側に@を収録していました。フランスは、QWERTYではなくAZERTYを使い続け、数字はシフトキーを押しながら打つことを主張しました。ドイツはQWERTZに固執しました。結局、国際標準化機構は、1994年8月にISO 2530を廃止し、代わりにISO/IEC 9995という国際規格を制定しました。

ISO/IEC 9995

ISO/IEC 9995

ISO/IEC 9995では、記号キーの配置は基本的に各国の自由であり、アルファベットもAMQWYZについては各国ごとに定めてよい、ということになりました。数字も各国ごとに、小文字と同じ側でもいいし、大文字と同じシフト側でもいい、ということになりました。この結果、コンピュータのキー配列は、各国ごとにバラバラのままとなり、もはや統一されることは無くなったのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://slashdot.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。

2015年 7月 30日